話せるブログ 第12回 物語「妻を亡くした患者さんの決断(第4話)」 

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

(前回のおさらい) 第3話へ

「早いもので、妻が亡くなってから
もう5年が過ぎようとしています。
1人になってしまったけど、
もう少し自分は生きると思うんです。
来月、娘の結婚式があるんですよ。」

青杉さんは5年前、
大掛かりな歯科治療はせずに、
最低限の治療にしてほしいと言っていた。
奥さんを亡くし、
自分の先も短いと思っていたからだ。
それが、5年経った今は、
大掛かりな歯科治療を受けることに、
前向きに考えているようだった。

「青杉さん、治療方針にもよりますが、
より良い状態を目指すなら、かなりの期間と費用がかかりますよ。」

「はい。これからの人生で、食べることって自分にとってとても重要ですし、
見た目ももう少しの間、ちゃんとしていたいんです。だから今は、
できる限りの治療を受けたいって思っているんです。」

青杉さんに何も迷いはない。
では私はどうか。

「できる限りの治療」

これもまた悩む。
どこまでやるべきかということを。

青杉さんの治療としては、
まず保存が難しく、
感染源となるような歯は抜く。
それによって失われた形や
機能を回復するために、
かぶせものや、ブリッジ、部分入れ歯、
患者さんがご希望されれば、
インプラントも併用して、
再建していくことになる。
そしてそれを日常的にきちんと使いこなしていく
リハビリ(訓練)も必要になる。
かなりの労力、期間、費用が必要になる治療だ。

しかも青杉さんの咬み合わせは、
過蓋咬合(かがいこうごう)といって、
かなり咬み合わせが深い状態。
下の奥歯が部分入れ歯で、
すり減った状態になっているので
余計に咬み合わせが深くなっている。
今回の青杉さんのご希望のように、
できる限りの治療をしたいということであれば、
この咬み合わせも全体的に変える方が良い。

ちなみに咬み合わせがこのままだと、
どんな不具合が考えられるだろうか?

①奥歯の欠損部に歯を入れるスペースが少ない。
 →入れ歯は可能だがすぐに壊れやすい。インプラントはできない。

②咬んだ時に、下の前歯が上の前歯を突き上げる。
→上の前歯に負担がかかり、かぶせものが外れやすかったり、前歯の寿命が短くなる。

③口の中の容積が狭く、舌や顎が後ろに後退している。
→顎全体が後ろに下がりやすく、前に出しにくいので、気道が狭くなり、呼吸に悪影響が出る可能性がある。
(詳細は教えて内藤先生 第9回第10回第11回参照)

④常に口や顎周囲の筋肉の緊張が生まれやすい。
→咬みしめの習慣につながったり、後ろの首筋の痛みや肩こりが起こりやすい。 

などなど。

いつも私たちが念頭に置いていることは、
私たちが行う歯科治療行為が、
青杉さんの全身の健康に害を与えてはならないということ。
全身の健康にとって害じゃない、
できれば、良い影響を与えるようにしたい。

今回の治療計画は、
そんな全身の健康への良い影響を期待できるものとしたい。
ただ大きく咬み合わせを変えていくことになると、
青杉さんの体がそれに適応できるかを
徐々に確かめながら進めていくことになるので
リハビリ期間も長く必要だ。

できる限りの治療ということだと、
自費診療になるが、
期間としても1年以上、
費用も良い車が買えるくらいかかってくる。
正直、青杉さんより、
私の方が迷っている感じだった。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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