この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。
この物語(全7話)のおさらい
第1話 第2話 第3話
第4話 第5話 第6話
第7話
『入れ歯は完成して使ってもらうまで
成功かどうかがわからなかった。
だから一生懸命勉強したんだよ。』
ある先生がそんなことを言っていました。
私はその言葉にとても共感しました。
特に歯科医として、
入れ歯治療の経験の少ないうちはそう強く感じていたからです。
入れ歯をつくることはどんな歯科医だってできます。
とりあえず型を取って、
その型を技工所に提出したら、
技工士がつくってくれますから。
技工士がつくってくれたものを
患者さんに渡す。
それを患者さんが使ってみて、
痛いと言ってる場所を削って調整する。
そんななんとなくつくられた入れ歯でも
患者さんは使ってくれることもありますし、
満足してくれることもあります。
でも全然使えない患者さんもやっぱりいます。
満足してもらえない患者さんもいます。
その違いは一体何なのでしょうか?
経験の浅い頃は、あまり見えていませんでした。
だから入れ歯治療を行うことにとても不安がありました。
患者さんが満足するか、
やってみなければわからないし、
その再現性もない。
結果が良いときと、
良くないときと何が違うのかを一生懸命考えてきて、
今は少しそれが見えてきました。
今回登場した、松川さんの場合にも、
なぜ難しかったのかが今はわかります。
とはいえまだ分からないことはありますし、
患者さんの期待にすべて答えられるわけでもありません。
だからいつも期待に応えるために
とにかく患者さんの訴えを良く聴いて、
最善をつくすことが大事だと思っています。
患者さんにとって
より良い入れ歯治療を行うために、
実際に入れ歯をつくる段階も大事ですが、
つくる前後のサポートがとても大事だと感じています。
入れ歯をつくる前には、
治療を受け入れられる
患者さんの態勢や口の状態をつくり、
入れ歯をつくった後も、
入れ歯の手入れや食習慣のサポートまで行うべきだと考えています。
入れ歯治療は、入れ歯をつくったり、
入れ歯を使用してもらうこと自体が目的ではありません。
大事なことは、その患者さんにとって、
入れ歯を使用することが、
生活の質をあげたり、
より健康を維持するものとして機能することだと考えています。
本当に患者さんを良い状態に導くためには、
歯科医師一人のスキルだけではなく、
医院全体としてサポートすることが必要です。
その重要性を伝えたいと思い、
「入れ歯満足度を高める歯科医院の総合力」
という形で、7回にわたり書かせて頂きました。
今回モデルとして登場して頂いた松川さんは、
最初は訪問診療で出会いましたが、
今は外来に定期的に通院してくれています。
来院時には、
当院のスタッフとプライベートな話もして、
とても楽しく通ってくれているようです。
通院できる間は、
通院して頂く方が良いと思っています。
元気な証拠ですから。
この状態が長く続くように、
できるだけ支援するのも私たちの仕事だと思っています。
でももし、
松川さんが通院できなくなってしまっても、
私たちは在宅まで伺って支援できます。
訪問診療も歯科医一人の力ではできませんが、
訪問診療を行うことのできる体制も
私たちはつくってきましたので。
そんな医院としての総合力があれば、
患者さんを生涯支援していくことできます。
そしてそれを求め、喜んでくれる方がいる。
私はそれをとても幸せなことだと感じています。
(おわり)
※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。
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