この連載について
歯科医と患者さんとの間にはギャップがある。それが不満や後悔につながることも多い。歯科医の内藤は、そのギャップを埋めるため週に一度、落ち着いて患者さんと話せる時間をつくることにした。するとそこに毎週訪れるようになった小学5年生のゆめは君。内藤とゆめは君。患者さんからのご質問やご意見をもとにした2人の気さくな会話から、歯科医の常識や日常がみえてくる。歯科医と患者さんのギャップを埋め、お互いに後悔のない歯科医療を選択するための情報が満載。
内藤先生
話せる歯科医
ゆめは君
辛口な小学校5年生
うん、ただね、この質問に答えるのって結構難しいなって思うんだよ。
それもあるね。ただ色が着いているだけなのか、虫歯なのか判断が難しいときもあるし、つめ物やかぶせ物が入っていると、その下は見えない。
ただの着色かどうかは、細い器具でそこを触った感覚や、最近だと、その状態を数値や画像で評価してくれたりする器械もある。
へえ。そんな器械もあるんだ?つめ物やかぶせ物の下みたいに見えないところは?
普通では見えないところは、レントゲン写真を撮って確認するね。歯と歯の間やつめ物やかぶせ物の下とかね。
レントゲンはね、わりと進行してからじゃないと分からない。だからレントゲンで確認できたら、その時点で虫歯は結構進んでいることが多い。
そうなんだ?まあ何か疑うことがあるからわざわざレントゲン撮るんだろうしね。
レントゲンで使用する放射線の量によってはね。検査で使用する程度は問題ないけど、それでもむやみやたらに撮らない方が良いよね。
判断が難しいっていうのもあるんだけど、この質問への回答が難しいなって思う理由は他にあって。
うん。患者さんと歯科医で、虫歯の理解や認識が一致していないことがあるから。
そう。虫歯って、細菌の塊が歯に付着して、その細菌たちが出す酸で歯が溶けている現象のこと。細菌の塊のことを歯垢(しこう)とかプラークとか言ったりするし、歯が溶けることを脱灰(だっかい)って言うんだけど。
だから、虫歯を時間経過で表すと、①細菌の塊(歯垢)の付着→②歯が溶け出す(初期脱灰)→③穴になる→④神経や歯の周りまで腐る、ていう感じ。
それでいくと、細菌が出す酸で少しでも歯が溶け出したら、それはもう虫歯ってことなんだ。
そうなっちゃう。でも、削って治療する必要があるかというとそうじゃない。歯は酸によってすぐに溶け出しいるんだけど、唾液がそれを治している。それを再石灰化(さいせっかいか)っていうんだけど。
だから、①細菌の塊(プラーク)の付着⇔②歯が溶け出す(初期脱灰)ていう双方向の関係が成り立つなら、そこは削る治療が必要ないってこと。
患者さんは、削る治療が必要かどうかってことが知りたそう。
たぶんね。だから削る治療が必要ないんだったら、いちいちそれを患者さんに伝えるかは悩むところなんだ。
虫歯ですかって聞かれたとき、厳密に言ったら虫歯だけど、虫歯の理解や認識が歯科医と患者さんの間で異なっていたり、伝えるときの言葉が足りなかったりすると、無駄に不安にさせてしまうこともあるから。
たしかに、虫歯ですって言われたら嫌だね。削ったりする治療が必要ないなら、あまり言われたくもないかも。大丈夫って言われたら安心するしね。
ある医師が言っていたんだけど、起こる確率が5パーセント未満なら、わざわざ患者さんには伝えないって。無駄に不安になるだけだからって。
だから、歯科医にとって、「虫歯ですか?」っていう質問て、一見簡単な質問に感じるけど、簡単にわかりやすく答えるのが難しい質問なんだよね。
なかには、④の神経や歯の周りまで腐るっていう段階まで来てますよって話をした後、「先生、じゃあこの歯は虫歯ではないんですね?」って聞いてくる人もいるからね。
(次回へ続く)
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