話せるブログ 第18回 物語「入れ歯満足度を高める歯科医院の総合力 (第1話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

「ここの歯科衛生士さんはみんなやさしい。
今まで行ってた歯科医院と全然ちがう。」

そう私に話をしてきたのは、
今、入れ歯を新しく作るために
来院している松川さん。
70代の女性だ。
一見気難しそうにみえるが、
話してみるとそうでもない。

松川さんが当院に通院してもう7年になる。
私と松川さんとの出会いは、当時、
足が悪くて通院できない松川さんのために、
担当のケアマネージャーが、
訪問歯科診療をしてほしいと
当院に依頼していきたことがきっかけだった。

当時は、入れ歯の調子が悪くて、
あまり食べたいものを食べることが
できていないということだった。
最初にお会いしたとき、
松川さんは歯医者に対して
あまり良いイメージを
持っていなかったらしく、
とても警戒した様子だった。

話を聞くと、
以前通院していた歯科医院で、
入れ歯が合わなくて痛いからと、
何回か通院していたら、
そのうちあまりちゃんと診てもらえなくなり、
しまいには受付で帰され、
診てももらえなくなったという。

こんなエピソードを聞いたとき、
歯科医である私は何を思ったか?

『そんなことするなんて、
なんてひどい歯科医なんだろうか』

とは、すぐには思えなかった。
今回の松川さんの話だけ聞くと、
その歯科医は、
医療人として褒められることではないが、
理由もなく、そんなことになるとも思えない。

だからそう思う前に、
その患者さんがどういう人で、
どういう状況かが気になった。

患者さんによって、
入れ歯治療も難しさが全然違う。
入れ歯を合わせること自体が、
とても難しい口や歯の状況をしている場合もある。

また入れ歯としては簡単なケースでも、
入れ歯を使用する患者さんが、
認知症の場合や、
神経質で気難しい場合なども、
満足して頂くことが難しくなる。

だから入れ歯治療の難しさは、
患者さんの適応能力に依存する部分があると言える。

適応能力が高い、
許容範囲の大きい患者さんは、
こんな入れ歯で咬めるのかなって
疑問に思うくらいアバウトな入れ歯で、

困っていないという場合も多い。

逆に、
適応能力の低い、
許容範囲の小さい患者さんは、
精密につくったはずの入れ歯でも、
色んな訴えや不満を、いつまでも
抱えている場合がある。

入れ歯自体が難しく、
患者さんのキャラクターも難しいとなると、
かなり満足して頂くまでは苦労する。
その患者さんの訴えや不満に、
とことん向き合う精神力も必要だ。

にも関わらず、
使用材料にこだわり、
時間や労力が大きくかかるため、
値段が決められている保険診療の
範囲で対応しようとすると、
経営的には赤字になってしまうことも多い。

松川さんの場合はどうだろうか?

「たぶんこれは苦労するな。
前に入れ歯治療をした先生も、
困り果てて、途中で嫌になっちゃんたんかな?」

松川さんには悪いけど、
最初に診察を終えた私は、

歯科医院の事情によっては、
仕方ないかもしれないとも感じていた。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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