この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。
経験を積んだ歯科医と、
経験の浅い歯科医で
大きな違いは何でしょうか?
それはその歯科医が
どんな経験を積んできたかに
よるとは思いますが、
自分自身の場合を
考えてみたいと思います。
私は歯科医として
働きだしてから
10年以上が経過しました。
10年前の自分と今の自分で
一体何が大きく違うでしょうか。
もちろん違うことは
たくさんありますが、
もし一つあげろと言われたら、
私は、「読む力」だと感じます。
「読む力」とは、
患者さんを診たときに、
なぜこうなってきたのか、
そしてこれからどうなっていくのか、
治療したらどうなるのか、
それらを読む力のことです。
10年前と比べると、
今の方が、この「読む力」が、
確実に高くなっています。
漠然と経験年数の経った歯科医と
考えながら経験を積んだ歯科医とでは、
例外なく、この「読む力」に
差があると感じます。
なせこの力に差が出るのでしょうか。
それは、考えている歯科医は、
患者さんを診たときに、
なぜこうなってきたのか、
そしてこれからどうなっていくのか、
その仮説を立て、検証することを
繰り返しているからです。
それにより
自分の中にデータベースを
つくっているのです。
経験の浅いときには、
そのデータベースに、
一般的情報や先人、他人の
情報しかありません。
経験年数が長くなるほど、
そこに自分の実際の経験という
情報が蓄積されます。
その情報には、
言葉や数値で表すことのできるものから
言葉や数値で表すことのできない
感覚的なものも含まれます。
データベースが蓄積されてくると、
患者さんを診たときに、
大体わかるわけです。
その患者さんがなぜこうなってきたのか、
そしてこれからどうなっていくのかが。
もちろん患者さんの中に、
全く同じ患者さんはいませんので、
傾向はあっても、
過去の情報の蓄積である
データベースから
すべての答えが出せるわけではありません。
特に、これからどうしていくかについては、
その患者さんの好みや価値観、
状況やタイミングによっても、
その答えは異なってきます。
だからそこには、
過去のデータにとらわれない、
ものすごく感覚的で
あいまいな考え方も
必要だと感じます。
言葉や数値で分類したものだけでなく、
自分の感覚的な部分も総動員しながら
患者さんと真剣に向き合っていると、
時に自分が考えている以上の
良い結果や感動的な物語が
生まれることがあるのです。
そこが人間を相手にする
歯科臨床の不思議で面白い所ですね。
これらはまた自分の中の
貴重な情報として
データベースに格納されます。
そしてさらに自分の
「読む力」が高まっていきます。
経験を積むということは、
こういうことをきちんと繰り返し、
蓄積していることだと考えています。
これからもそんな経験を
たくさん積めるように
頑張っていきたいと思います。
さらに10年後には
自分は一体どんな経験を積んでいるでしょうか?
(次回へ続く)
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