話せるブログ 第22回 物語「入れ歯満足度を高める歯科医院の総合力 (第5話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい(→第21へ)

「新しい入れ歯が出来上がりました。
今日からこの新しい入れ歯を使用してみてください。」

「はい、わかりました。」

松川さんの入れ歯が出来上がった。
でもすぐに問題なく快適に使用できるわけではなく、
何度か調整が必要になることは想定された。

松川さんは、
これまで何件かの歯科医院で
入れ歯をつくってもらった経験があるので、
入れ歯というものは、すぐに合わず、
調整が必要になることは承知してくれていた。

この認識を持っていただいていることは、
歯科医としては大変助かる。
入れ歯は、
完成してからある程度問題なく
使用できるまで調整が必要になることも多い。
もちろん、
ケースによって調整がほとんど必要ない場合もあるし、
調整が少なくてすむように、
私たちはその過程で補正を繰り返しながら慎重につくっていく努力はしている。

だけど使用するのは患者さん。
個々の条件や能力はかなり違う。
患者さんがそこを踏まえず、
他人のすごくうまくいった話や、
ネットでの良い情報ばかりを信じている場合、誤解が生じる時もある。

私が学生の頃、
入れ歯治療の指導教員が
こんなことを言っていた。

「入れ歯が出来上がって、
最初に使い始めるときは、
大体70点くらいを目指していく。
そこから、咬み合わせや適合の調整を
それぞれ繰り返しながら点数を上げていく感じなんだよ」

そういって確かこんな図を描いていたと思う。

入れ歯を使用し始めて、
最初は大丈夫だったのに、
だんだん痛くなってくるときがある。
そのとき、その部位の歯肉には、
傷のようなものができている。

患者さんにわかりやすいかと思い、
傷ができていますねという
表現をすることは多いが、

この傷のことを、正確には
褥瘡性潰瘍(じょくそうせいかいよう)という。

圧迫によって、
血流がわるい状態が続くと、
その組織は死んでしまう。
さらにそこに、入れ歯の動きで
擦れる力が加わると、
潰瘍と言われる組織欠損が起こる。

このメカニズムは、
床ずれと靴ずれと似ているので、
新しい入れ歯を入れたら、
新しい靴を履いた時の靴ずれみたいなことが起こりますよと説明するときも多い。

本当は傷になる前に、
調整することが出来たらよいが、

医院側の診療予約の都合や
患者さんのご都合などもあるので、

理想のタイミングで調整できないこともある。

松川さんの場合には、
できるだけ早く次の調整をしないと難航してしまうので、
新しい入れ歯をお渡した翌日に、
再度来院して頂くようにした。

新しい入れ歯をお渡した当日、
私の中では、
70点くらいはクリアしてると感じていた。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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