話せるブログ 第19回 物語「入れ歯満足度を高める歯科医院の総合力 (第2話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい(→第18回へ)

難航すると予想して
はじめた松川さんの入れ歯治療。
当初の予想通り、
なかなかすんなりとはいかなかった。

上の歯は右上奥歯が1本、
下の歯は前歯だけが残っている状態。
それに、松川さん自身、

どこで咬んだら良いかわからず、
咬み合わせが安定していない。

ご本人の自覚症状を頼りに、
使用している入れ歯の
痛いところや違和感のあるところを

調整すると、いったんは少しマシになるが、
すぐにまた不調が出てしまう状態だった。

なかなか理解が難しいところだが、
入れ歯が安定しなかったり、
あちこち痛くなってしまうのは、
咬み合わせがうまくいっていないからのことが多い。
その人に調和した咬み合わせになっていないということ。

ただこの辺は、
許容量の小さい、
敏感な患者さんの場合、
とても苦労するところだ。
根気のいる長いお付き合いが必要になる。

長くお付き合いするためには、
私たちは入れ歯の状態を
良くすることに対して、
あきらめずに誠意をもって

向き合わなければならないし、
患者さんも私たちのことを

信用してついてきてくれなくてはならない。

そして、入れ歯をうまく使用し、
満足していただくためには、

その患者さん自身の入れ歯を使用する能力を高める必要もある。

どんなに精巧な入れ歯をつくったとしても、
それを使いこなす能力がなければ、
その入れ歯はうまく機能することはない。
だから入れ歯をつくることと、
それを使いこなすためのリハビリを
あわせて行うことは必須となる。

このことは考えてみれば
当たり前のことなのだが、

咀嚼や飲み込むことなど、
食べる一連の動作は、
日常的に当たり前のこと過ぎて、
その機能が低下することがあると
イメージしにくい。

だから歯を失ったら、
ただ歯を入れたら元のように
咬めるようになると

思ってしまいがちになる。
しかしそれは大きな誤解である。

確かに、若くて適応力の高い人や、
高い口腔機能を持つ人は、
すぐに入れ歯を使いこなすことができる。
だからあまり深く考えず、
何となく入れ歯をつくっても、
うまく使用してくれる。
でも全員がそううまくはいかないことを知っておいてほしい。

入れ歯のことを、
専門用語で義歯(ぎし)と呼んでいるが、
これを義歯ではなく、
義足(ぎそく)の場合で考えると
少しわかりやすいかもしれない。
もし不幸にも片足を失くし、

義足をはめることを余儀なくされた方がいるとする。

その義足を使用して、
いきなりうまく歩いたり、

走ったりできるだろうか?

まして、
高齢で筋力が低下していたり、

寝たきりだったりした場合には、
義足を使いこなすために、
かなりのリハビリがいるはずだ。
それに、どれだけうまく使いこなし、
その能力を高めることができるかは個人差がある。

では松川さんはどうだろうか?

これまで松川さんの入れ歯調整を
訪問診療で対応してきたが、
松川さんの足が回復してきて、
通院できそうだということだったので、
外来診療に切り替え、
口腔機能全体を見ながら、
新しい入れ歯の作製を行うこととした。

「入れ歯だけみていては、
松川さんの満足度を高めることができない。」

私はなんとなくそう感じながら
外来診療での入れ歯作製をスタートさせた。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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