話せるブログ 第42回 物語「親からのおくりもの~しぶしぶ連れてこられた患者さん~(第1話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

その日、母親に連れられ、
1人の少年が医院を訪れた。
相場淳也(あいばじゅんや)君。
16歳の高校2年生。
顔が小さく、
スラっとした細身の男の子。

うつむきかげんで表情は暗いが、
よく見ると、とても整った
きれいな顔をしている。

虫歯がたくさんあることは
母親も知っていたが、
これまで歯医者に行くことを
淳也君が拒否していたらしい。

淳也君本人も、
自覚はあったらしいが、
痛みがそれほど強くないので
そのままにしていたという。

ただ今回は、
何もしなくても
ズキズキするような
強い痛みがあったとのこと。

だから今回ばかりは、
母親に何とか説得され
しぶしぶやってきたらしい。

「こんにちは、
歯科医の内藤です。
相場淳也くんですね。
よろしくお願いします。」

「・・・・。」

軽く会釈したようにもみえたが
淳也くんからはっきりとした
あいさつは返って来なかった。

前髪が気になるのか、
しょっちゅう首を振って
前髪の位置を整えている。

「痛いところがあるんですね?
担当した歯科衛生士から
ある程度お話をききました。
さっそく口の中を診せて
いただいて良いですか?」

痛みの強いときは、
じっくり話を聞くのは
患者さんにとってつらいだけ。

すでに歯科衛生士から
ひととおおり状態の
報告を受けていたので、
さっそく私は口の中を
診る事にした。

痛みの原因は何か?

診ると、左上奥歯(第一大臼歯)に
大きな虫歯があった。
全体的に虫歯が多いが、
特に左上奥歯の虫歯は
進行していて、今回の痛みの

原因だと考えらえた。

「痛いのは左上の奥ですね?」

(淳也くんは少し
うなずいたようにみえた)

「左上奥にかなり
深い虫歯がありますね。
痛みの原因はこれの
可能性が高いですね。
痛みの経過からすると、
神経まで進行している
可能性もありますが、
できるだけ神経は
残した方が良いので
そのための治療を
まず頑張りましょう。」

「先生、できるだけ神経は
取らない方が良いのですよね?」

と、付き添いにきていたお母さん。

「そうですね。
できるだけ
神経は残した方が、
歯のためにも身体のためにも
良いですよ。」

「できるだけ神経を
取らないで良いような治療を
してあげてもらえますか?
虫歯の本数が多ければ全部
というわけにはいかない
かもしれませんが、
自費でも良いので、
できるだけ良い方法があれば
そうしてもらえますか?」

「わかりました。
全体の状況をみて、
優先順位を決めて
やっていきましょう。
まず今日は応急処置を
しましょう。」

応急処置後に、私は、
これからの治療方針について
話し合うことにした。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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