話せるブログ 第49回 物語「親からのおくりもの~しぶしぶ連れてこられた患者さん~(第8話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい→(第48へ)

「今回、歯が痛くなって来たよね?
このまま今の状態が続くと
どうなると思う?」

「・・・。また痛くなる?」

「そうだね。
今痛みが治まっている歯も
また痛くなるだろうし、
他の歯も虫歯が進行してきているから
どんどん痛くなっていくよ。
それに困るのは痛みだけじゃない。」

「痛みだけじゃない?」

「そう。虫歯が進行したら、
歯の神経を取る。
そうすると歯の寿命は縮むから、
たぶん40歳~50歳頃には
歯を抜くことになる。
このままだと、
多くの歯がそうなっちゃうよ。」

私は、淳也君のこれからの
未来予想図を描いて
それをみせながら伝えた。

この未来予想図は、
私が頭の中でイメージしている
ものを描いたもの。
これによって、
そのイメージを共有したかった。

「でも治療したら
治るんじゃないの?」

「このままだと治らない。
治してもすぐまた悪くなる。
それに、治療を受けに
歯科医院に来るのって嫌じゃない?」

「嫌だけど。」

「痛いから歯科医院に通って、
痛みを取ってもらって、
でもまた痛くなって
歯科医院に通って
嫌な治療を受けて。

それを繰り返すと、
どんどん歯が無くなっちゃうよ。
しんどいし、無駄な時間も
お金もかかるし。

とてももったいない。」

「・・・。」

「これから受験とか、
就職とか、大事なときに
歯が痛くなったり、
口元や歯がつくるイメージが
相手に与える印象を
かなり変えてくるから
人生が変わるときがあるよね。
それに変わるのは
自分の人生だけじゃないかもしれない。」

私は核心的な内容に入った。

「どういうこと?」

「淳也君は今付き合っている彼女いる?」

「いや別に」

淳也君ははっきり答えない。
でもたぶんいる。
そんな感じの反応だった。

「そっか。
ただ覚えておいてほしいのは
口の中の環境って、
相手にうつるってこと。
もし付き合ってる彼女がいたら、
うつすことになるよ?
それに結婚して子供が
できたら、気を付けないと
うつすことにもなるよ。
もし淳也君の口の中の環境が
虫歯だらけだったらどうなる?」

「・・・」

それから私たちは、
1年以上かけて、
原因のコントロールや
虫歯治療(歯の神経を保存する治療や
修復治療)を行っていった。

ーーー2年後ーーー

大学生になった淳也君は、
その日久しぶりに
メインテナンスのために
通院しており、担当歯科衛生士と
何やら楽しそうに話をしていた。

治療後も、定期的に
メインテナンスを受けていた。

最初のイメージとは違い、
さわかやかな好青年という感じ。
口元がとてもきれいで、
笑顔もとても素敵だ。

メインテナンスを終えた
歯科衛生士が私に報告に来た。

「先生、淳也君、
この前彼女とディズニーランド
行ってきたんですって。」

(終わり)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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