話せるブログ 第31回 物語「アゴが歪んできた!?低いかぶせ物が引き起こした問題」(第2話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい(→第30回へ

数年ぶりに来院された
吉沢さんのアゴは右にずれ、
右下の前歯の歯並びが変化していた。

なぜそのような変化が
起こってしまったのか?

吉沢さんの
口の中の状態として、
右下の第一大臼歯の欠損だけでなく、
右上の第二大臼歯に低くて小さい
不自然なかぶせ物が入っており、
さらに右下第二小臼歯にも
低くて小さい不自然なかぶせ物が入っていた。

ざっくり言ったら、
右側の奥歯に
不自然なかぶせものが
入ってることと、
奥歯を1本失っていることにより、
右側の咬み合わせが低い
状態だということ。

それに加えて、吉沢さんは、
歯ぎしりと食いしばりの癖がある。
それも口の中の様子を見ると分かる。

そのような癖がある方は特に、
一番奥の咬み合わせが低く、
その状態が続くと、
咬み合わせの低い方に、
アゴがズレていくことがある。

だから吉沢さんの場合には、
右側にズレた。
厳密にいったら、
右後ろにズレていた。

ではなぜ咬み合わせが
低くなるような不自然な
かぶせ物が入っているのか?

原因の一つとして、
かぶせ物を入れるときに、
歯科医が患者さんの感覚に
頼りすぎている場合がある。

患者さんの感覚に頼り、
短期的な目線で
患者さんの訴える違和感を
取ることばかりを目的とすると、
咬み合わせが低くなって
しまうときがある。
そのような治療の連続は、
長期的にみると良くない
結果を引き起こす場合がある。

その良くない結果の一つが、
今回の吉沢さんのような
アゴのズレや歯並びの変化だ。

その時々で
患者さんの訴えに真摯に応ようと
一生懸命やっている
歯科医の立場からすると
そんなの関係ないと
思いたいことかもしれない。

しかし吉沢さんの場合、
入っているかぶせ物と
アゴのズレや、
右下前歯の歯並びの変化が
関係していることは
疑いようのない事実だった。

「かぶせ物で、そんな変化が
起こってきちゃうんですね。」

吉沢さんは、
徐々に自身の現状を
理解できてきた様子だった。

「じゃあまずかぶせ物を
変えなきゃですよね?
かぶせ物を変えたら
アゴのズレも治って、
ちゃんと咬めますか?
下の前歯の歯並びも治りますか?」

「そうですね。
確かにかぶせ物は
変えなければなりません。
まずは仮歯をつくって、
確かめていきましょう。
正直なところ、
やってみないとはっきり

したことは言えませんが、
かぶせ物を変えるだけで、

下の前歯の歯並びも含めて
治る可能性は十分にあると思いますよ。」

私は、期待する吉沢さんにそう伝えた。

咬み合わせの治療は
結果の予測が、
不確実な状態で、
進んでいくこともある。
だから普段私は、
あまり患者さんに過度な期待を
持たせるようなことは言わない。
結果予測については
慎重に伝えるようにしている。

困っている患者さんからしたら、
私たち歯科医の伝え方で
決断が左右されることも多いと考えるからだ。
だから歯科医は、
できるだけ誤解を与えないような
伝え方をしなければならない。

ただ今回、
吉沢さんの場合には、
確実とまではいかないが、
かぶせ物を変えるだけで、
良い結果になる可能性が高いと予想した。

だから私は今回少しだけ、
吉沢さんが治療に対して
前向きになれるような
伝え方をすることにした。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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