話せるブログ 第24回 物語「入れ歯満足度を高める歯科医院の総合力 (最終話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい(→第23へ)

新しい入れ歯を使用してから、
少しずつ松川さんの咬む位置が変化していった。
以前にも書いたが、
入れ歯を使用していて、歯茎が
あちこち痛いと訴えられる患者さんの場合、

咬み合わせがうまくいっていない場合が多い。
特に、咬む位置が変化していくような方は、
その都度調整を繰り返しながら、
その方の許容範囲におさめていく必要がある。

松川さんの場合にも、
徐々に咬む位置が変化していくことにあわせて、
調整を何度か繰り返した。

このようなことを、
歯科医と患者さんの間でお互いが理解しておく必要がある。

何度も入れ歯の調整が繰り返される場合、
患者さんからすると、

「なんで何回も調整しているのに、痛いの?
 入れ歯で何でも良く咬めるって言ってる人もいるのに。
 この先生の腕が悪いだけじゃない?」

そう思っても仕方ない。

ただ歯科医からすると、

「この方の入れ歯はとても難しい。
しかも入れ歯をつくってから
実際に使用して頂いたら、咬み合わせも変化している。

それに合わせて調整していかなければならない。
何度も調整を繰り返してるけど、難しい問題。
だからこれは仕方ないことだ。」

そう思っているかもしれない。

歯科医と患者さんの間で、
信頼関係ができていない場合、

入れ歯の調整を繰り返すこと自体難しい。
良くなったり悪くなったりを繰り返すこともある。
だから長く付き合っていける関係性が必要だ。

患者さんの立場からすると、
その歯科医が本当に上手な歯科医なのかは判断がつかないと思う。
正直、歯科医からしてもその判断はとても難しい。

なぜなら、入れ歯の治療は、
一つの正解があるような、
ただの物づくりではないから。

もちろん、良い入れ歯には大体の傾向はある。

ただ患者さん個別の訴えや気持ちを理解し、
それを再現していくプロセスがそこにはある。

物をつくるための事前準備から始まり、
その人のその時の状況に合うものをつくり、
そしてそのつくった物をどう使ってもらうことが、
その方にとって最も良いのかまで考える必要がある。

それに自分の訴えや気持ちを、
うまく伝えられる患者さんばかりではない。
障害を持つ方や、認知症の方もいる。
患者の本能や情動、五感に聞く努力も必要だ。


だから、入れ歯が上手な歯科医は、
頑固であまり話をしないような
職人気質な歯科医が多いかと思いきや、
患者さんとうまく話しができることはもちろん、
気持ちを察することができるような
コミュニケーション能力がとても高い歯科医が多いと感じる。

だからこそ、
患者さんと長く付き合っていくことができるような
関係性を築くことが出来るのかもしれない。

松川さんはその後調整を繰り返し、
入れ歯を安定して使えるようになった。
たまに調子が悪くなって、
また調整をするときもあるが。

先日、松川さんが来院したとき
こんなことを言っていた。

「私ね、ここの歯科医院の人たちが
とても親切にしてくれるから、
本当にこの歯科医院に来てよかったって
娘や孫にも言ってるのよ。
何でもっと早く来なかったのかって。」

それはとても嬉しい言葉だった。

松川さんはさらに続けた。

「さっきね、待合で、
隣の患者さんが奈良から来てるって言うから、
私言っといたのよ。
なんでも遠慮せず相談しなさいよって。
内藤先生は時間が無くても
ちゃんと話を聞いてくれるからって。」

「いや、時間が無いときはちょっと・・・。」

私は少し困惑したが、
それより一体誰に話しかけたんだろうと気になった。

その日の診療後、私はそのことを受付に確認した。

「松川さんは一体誰に話しかけてたの?知り合い?」

「いや知り合いじゃないと思いますよ。
話しかけていたのは、その日初めて奈良から来院された患者さんですから。
待合で待っているときに、うちの良さをすごいアピールしてくれてましたよ。」

(おわり)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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