話せるブログ 第45回 物語「親からのおくりもの~しぶしぶ連れてこられた患者さん~(第4話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい→(第44へ)

淳也君は次回ちゃんと
来てくれるだろうか?
その日一日の診察を終えた私は、
淳也君の次のアポイントメントを
確認した。

「予約を取ってない??」

受付に確認すると、
次の予定が合わず、
また後日連絡して
予約をすると言って
帰ったとのこと。

後日の連絡となると、
来院が遠のくことも多い。
また痛くなったりして
困らないとなかなか歯科医院には
行きたくないものだから。

次に来れないなら、
初診時にもう少し
色んなことを
伝えておくべきだったろうか?

初診の患者さんに、
何をどこまで伝えるのか?

このことは、私たち歯科医が
頭を悩ませることの一つである。

その日、はじめて会った私たちが、
こちらのもつ知識や考えを
すべて伝えたとしても、
絶対にすべて伝わらない。

そもそも歯科医が
言っていることを
患者さんにすべて理解しろ
というのはとてもむずかしい
話だと思う。
まして、痛みがあったり、
慣れない緊張感の中では、
頭に残らなくても当然だと思う。

歯科医は、
歯科医と患者さんには、
もともとギャップがあることを
肝に銘じておかなければならない。

歯科医が伝えたと思っていても、
患者さんは理解できていないことも多い。
でも患者さんは、
歯科医の前では、
その歯科医の説明で
わかったようにふるまってくれる。

だから歯科医は、
患者さんに話をすると、
結構伝わったと思っている。
私自身も結構伝わっていると
思っている。
でも自分が思うほどは伝わっていない。
どうもそれが事実みたいである。

もともと前提条件が違う人同士。
だからその中で、
コミュニケーションをとるには、

やはりそれなりの時間と回数が
必要になる。

何度か話し合いをすると、
歯科医も患者さんの言いたいことが
だんだんくみ取れるようになるし、
患者さんもだんだん歯科医の
言っていることを

理解できるようになってくる。

いきなり初対面で、
しかも短時間で、
すべてを理解し合おうというのは
無理なことだし、
はじめて会った歯科医の
言っていることすべてを
信用して、わからなくても
言うことを聞けというのも
おすすめできない。

なぜなら
良かれと思ってやっていることでも、
いつも歯科医のすすめることが
その患者さんにとって必ずしも
良い結果に導くとは限らないから。

歯科医だって間違う。
だって正しい答えは一つではないから。
単純な問題ならまだしも、
とくに複雑な問題に対する治療方針は、
その患者さんにとっての答えに
間違えずにいきなり
辿り着くことはとても難しい。
だから患者さんとの対話が
とても大事になる。

でも時に、
その人の価値観や状況を鑑みず、

こちらの考える正しさで
強くすすめることもある。

私は、淳也君に対しては、
それが必要だと思った。

でも初診時には、
まずは痛みをとって、

歯科医院への警戒を緩めてから、
少しずつ伝えていこうと私は企んでいた。

「もう少し強く次は来るように
言うべきだったかな?
こちらから連絡してみようか?

いや、嫌がれながらも今回
淳也君を連れてきてくれた

お母さんに託そう。」

私はお母さんを信じ、
後日予約が入るのを待つことにした。

ーーー

数日後、担当の歯科衛生士から、
淳也君の予約が入ったと報告を受けた。

「今は痛みは無いそうですよ。」

痛みが取れたのに
また来てくれるなら、

淳也君は必ず変わる。

私はそう確信した。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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