この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。
この物語(全8話)のおさらい
第1話 第2話 第3話
第4話 第5話 第6話
第7話 第8話
あるときは当たり前だけど、
失われてはじめてその
ありがたさに気づくものがあります。
体や歯の健康、
それに親や身近で
お世話になっている人達も
そうかもしれません。
歯のことで自分が
困った経験をもつ親は、
子どもはそうならないようにと、
歯科医院に熱心に連れてくる
ことが多いように思います。
淳也君の場合にも、
そんな母親が何とか説得して
来院したという感じでした。
本人も痛みが強いから
さすがに何とかしないとと
思ってはいたでしょうが、
痛みが無くなれば大抵の場合、
来なくなってしまいます。
よほどその子本人が
困っていないと、
その重要性には
気付けないことがほとんどだからです。
でもこの時点で、
現状にどう向き合うかで、
未来が大きく変わっていきます。
淳也君の場合には、
母親がしっかりと説得して
再度来院につなげてくれました。
そして、
私たちもできる限り、
その場しのぎではなく、
根本的に改善するような
関わり方をしようと
思いました。
そのときの関わり方として、
2つのことを考えてもらうように
意識しました。
まず、
このままの状態だと
どうなるかということ。
未来予想図で、
自分の未来をイメージしてもらい、
どんな自分でありたいかを
考えてもらいました。
それともう一つ、
問題点を淳也君の身近なことと
つなげて考えること。
これら二つを考えながら話す中で
何とか淳也君の気持ちを動かして、
根本的な改善に重要となる
協力関係を築こうと思ったのです。
淳也君の場合には、
また痛くなるのは
嫌だっていう気持ちと、
将来的にどうなるか、
彼女にどう思われるかは
身近に感じることができたようです。
また、将来的に、
自分の結婚相手や子どもにも
うつすかもしれないっていうのは、
響いたようです。たぶん。
私には、彼女がいるかどうかは
教えてくれませんでしたが、
担当の歯科衛生士とは、
彼女とのことを話してたみたいですので。
大学生になると、
親元から離れたり、
生活スタイルが変わったり、
これまでのように歯科医院へ
定期通院することが
難しいかもしれません。
ただ今の淳也君の口の中の現状や
習慣ならある程度大丈夫そうです。
(実際は、大学生になっても
頻度は減りましたが、
メインテナンスに来てくれています。)
これまで歯科医院に通院して
嫌な思いもしたと思いますし、
時間もお金をかかりました。
でも20歳をとても良い状態で
迎えることができました。
それは本当に価値のあることだと思います。
そして淳也君は後から
気づくはずです。
それは、
親から送られた大きな愛情だったってことに。
私はこの経験から
親としても歯科医としても
大変勉強させて頂きました。
患者さんの将来を見据えて、
今をどう関わるのか。
患者さんにとって、
今は一見迷惑なようにすら感じても、
後からその価値が伝わるような
そんな関わり方や治療が、
時には必要なのだと思いますから。
※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。
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