話せるブログ 第43回 物語「親からのおくりもの~しぶしぶ連れてこられた患者さん~ (第2話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい→(第42回へ)

淳也君の左上第一大臼歯の
虫歯はかなり深くまで
進行しており、
痛みも強く訴えている。
まずはこの部位の処置を
行うことにした。

ただ感染歯質
(虫歯になっている歯の部分)

をすべて取り除こうとすると、
歯髄(しずい)
が露出してしまう。

歯髄(しずい)とは、
字のごとく、
歯の中心にある髄(ずい)のこと。
※ちなみに、骨の中心にある髄は、骨髄。

一般的に、
歯髄のことを
わかりやすく神経と
言っているが、
実際には、神経以外にも、
血管や色んな細胞が
歯髄には存在する。

歯の神経を取るということは、
この歯髄を根こそぎ取る
ということ。

今まで、歯髄があって、
血が通い生きていた歯は、
歯髄を取ると、
血の通わない死んだ歯になってしまう。

生きている人間は
基本的に勝手に腐っていかない。
ところが、
死んでしまうと、すぐに腐ってしまう。

これは、生きている人間には、
免疫力があり、
細菌が勝手に増えることが
できないが、死んだ人間では、
免疫力が働かないため、
細菌が増え放題になって
しまうからだ。

歯も同じだ。
歯髄を取ってしまった歯は、
細菌が増え放題。
その細菌は、体に悪影響を与える。

その影響が、
体の許容量(免疫力)を

超えてしまうと、
病気として発症してしまう。

その歯の周りで
病気ができることもあれば、

皮膚炎などの全身症状として
あらわれることもあるから、
まだまだその影響は
計り知れない。

それに歯髄を取った歯は、
間違いなく寿命が短くなる。
だからできるかぎり

歯髄は取らない方が良い。

虫歯治療中に、
歯髄が露出してしまうと、

歯髄を残せる確率が
少し下がってくる。

そこに細菌感染が起こる
可能性が高まるからだ。

歯髄に細菌感染が拡がって、
腐り始めたら、
それは元に戻せないので、
根こそぎ取ることになる。

できるだけ神経を
残すためには、
歯髄が露出するほど、
感染歯質を取り除き過ぎても

良くない。

だからといって、
感染歯質を残し過ぎると、
そこから歯髄に、
細菌感染が拡がってしまうこともある。

「痛くないですか?」

(口を開けながら、
淳也君はこくりとうなずいた)

取り除き過ぎず、
残し過ぎず。

その日は、
麻酔はせず、
痛みがでない範囲で
感染歯質を取り除き、
歯髄保護の処置を
慎重に行った。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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