話せるブログ 第46回 物語「親からのおくりもの~しぶしぶ連れてこられた患者さん~(第5話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい→(第45へ)

淳也君の来院日。

「今日は1人?」

私がそう聞くと、
淳也君は軽くうなずいた。

その日お母さんの姿はなく、
淳也君は1人で来たらしい。

「痛かったところは、
どうですか?痛くない?」

淳也君はまたうなずいた。

「よかった。そしたら、
まずはその歯は少し様子を見て、
今日は全体的な今後の方針について
話をしましょう。」

私は今後の方針について
白紙の紙にそのステップを
書きながら説明をはじめた。
(下図)



「まず全体の方針として、

3つのステップに分けて考えます。
①は原因の除去、

②は形や機能の回復、
③は、再発防止・維持
という3ステップです。」

淳也君の無表情だったが、
私は話をつづけた。

「虫歯治療っていうと、
歯を削ってつめるとか、
かぶせるとか、
②のステップの話が
されることが多いんだけど、
まずはとても大事なのが、
①のステップ。
なんで虫歯が
進行してしまったのかを
きちんと知って、
そうならないような
環境づくりをすることが
とても大事。
そのためには、
私たち歯科医療者と
淳也君とがお互い
協力しないといけないんだよ。」

淳也君はまだ無表情のまま。

「だから私たちだけが
頑張ってもだめだし、

淳也君だけが頑張って
というわけでもない。

協力しないと。」

淳也君は表情を変えない。

(大事なことを言っているけど、
伝わっているかな?)

正直私は、自分の話があまり
伝わっているようには思えなかった。
話の内容を少し変えてみる。

「淳也君に質問して良い?」

ふいに私がそう言うと、
少し淳也君がこちらを向いた。

「たとえばね、
もし家をリホームするとするでしょ?
その家にもしシロアリが
うじゃうじゃいることで
柱がボロボロだったり、
床がカビだらけだったりしたら、
どうする?」

淳也君は首をかしげているだけで
答えない。

「シロアリやカビを
そのままにして、
柱や床を変えていったら、
嫌じゃない?」

淳也君が少しうなずいた。

「柱や床がボロボロになった原因が
シロアリやカビだったとしたら、
それをまず取り除きたいよね?
実は虫歯治療もそれと似ていて、
まずはその原因を
取り除きたいんだよ。

それには淳也君にも
協力してもらわないといけないんだ。」

淳也君は無表情。

(あれ、少し伝わったかなと
思ったんだけど。)

虫歯になりにくくて、
治療したところも悪くなりにくい
健康的で良い口の中の
環境をつくるために、
淳也君の協力を得たい私。

しかしこのとき、
そのための伝え方として
大きな間違いをしていた。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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