話せるブログ 第35回 物語「顎が歪んできた!?低い被せものが引き起こした問題」(最終話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい(→第34回へ

「あれ?表情がすっきり
していないように見えますが
何かわからないことや
聞いておきたいことなど
ありましたか?」

吉沢さんに私は尋ねてみた。

すると吉沢さんは

「いや、治療については
良く分かったんですけど、
ただ・・・。
マウスピースと入れ歯って
どれくらいかかるんですか?」

「あ、費用のことですね?
マウスピースも入れ歯も
自費治療のものと、
保険治療のものとあり、
種類がありますが、
今回は保険治療のものが
まずは良いと思っていて、
それだと大体マウスピースが
7~8千円くらい、
入れ歯は5千円くらいかと。
ざっくりですみませんが。」

「ああ、それくらいなら
大丈夫です。
インプラント治療を受けたくて
来たんですけど、
思いがけない出費があって
今年はすこし経済的に
厳しくなってしまって。
だからインプラントなどの
高額な治療は、
できたら来年に
受けたいなと思っています。
それでも大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。
それくらいの期間だったら、
今の状態から悪くなっているって
ことは無いと思いますし。
それに今回つくる入れ歯と
マウスピースの使用で、
様子をみてからインプラント治療を
受けるかを決めた方が良いと思いますし。
時間的猶予はありますね。」

費用についても
患者さんが意思決定する上で
とても重要な要素になる。
当たり前だが
患者さんの経済状況も
その時々でかわることもある。

今回の吉沢さんのように
インプラント治療を受けるため
ある程度費用がかかることを
覚悟してきた方でも、
状況がかわることもあり得る。
もちろん経済状況だけでなく、
仕事が忙しいなど、
時間的に難しいという方もいる。

患者さんからしたら、
今すぐしなければならないのか、
少し待てるのか、
そんな要素によっても、
選ぶ治療方針はかわる場合がある。

今は最低限の治療しか
受けられない。

でも2年後には、
できるだけ治療を受けたい。
そんな患者さんもいるだろう。
患者さんの状況も想いも

変化していくものだから。

ーそれから約1年後ー

「緊張していますか?」

「インプラント治療を受けるのは
はじめてなので、少し緊張はしますね。」

その日は当院で
インプラント治療を行う日。

少し緊張した様子で、
チェアーに座っている女性。
無事にインプラント治療の日を
むかえることができた吉沢さんだ。

「ここまで道のりは
長かったですけど、

ようやくインプラント治療を
受けるところまできました。」

緊張していた様子ではあったが、
吉沢さんの表情に迷いはなかった。

(でもここからが始まりですよ。)

私は心の中でそうつぶやいた。

この日、吉沢さんの口の中には
無事にインプラントが埋入された。
しかしそれと同時に、
私たち歯科医の心には
大きな責任が埋入された。

(おわり)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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