話せるブログ 第15回 物語「妻を亡くした患者さんの決断(あとがき)」 

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

この物語(全6話)のおさらい
第1話  第2話  第3話
第4話  第5話  第6話

私は現在、
歯科医師になって10年が経ちました。
ただ歯科医師になってから
ずっと悩んでいたことがありました。

誠意のある歯科医療は、
患者さんの人生をより健康で
豊かなものできる可能性がある。

これは間違いないと思います。

だけど、

患者さんにとって、
正しい治療方針を立てること。

これについては、すごく悩んできました。

だってその患者さんにとって
何が正しいかなんて、
何を優先するかによって違うと思うんです。

だから試験問題のように、
正解が決まっているようなもの
ではないはずなんです。
でも歯科医師は、患者さんの前で、

さも正解があるかのように振る舞っています。

私たちが行う診断行為には、
ある程度、一つに集約される
正解が存在します。
分かっていないこともありますし、
コンセンサス(合意)
が得られていないこと
もありますので、すべてではありませんが。

たとえば、
痛みのある歯が、
今どういう状況で、
どうしてそうなっているのか、
そして今後どんなことが予想されて、
解決するためは、
どんな治療方法があるのか。

また、歯を抜いた後、
今後どうなることが予想されて、
歯を入れるための方法は、
どんな方法があるのかなど。

患者さんから話を聞き、
診断のために必要な情報を聴取します。
私たちは教育で、
できるだけ短的に、
必要な情報を患者さんから聴取し、
短時間で診断することを教えられてきました。

今患者さんがどういう状態なのかを
歯科医学的に診断する行為は、
歯科医師によって、
あまりにバラバラだと良くないと思います。
それに、
治療方法にどんなものがあるのかも、
歯科医師なら、ある程度同じような方法が
提案されるべきだと思います。

でもその診断や提案があった後、
実際にその患者さんが、
どうしていくかということについては、
絶対正しい一つの答えはなかったんです。

だってその選択は、
その患者さんがどう生きるか
ということでもありますから。
当然患者さんによって違うんです。
しかも同じ患者さんでも、
タイミングによって違うんです。

そのことが自分の中で
区別されてから、
これまでの心のモヤモヤが
少しすっきりしたのです。

患者さんそれぞれで答えが違う。
だからそれを認めたうえで、
患者さんの実態によりそった
答えを一緒に見つけていけば良いだけじゃないかと。

歯科医師は、
診断と治療法については
教わる機会が多いと思います。

でも患者さんへの治療法提案のその先、
患者さん個別の治療方針に辿り着く方法は、
おそらく教わることがあまりないと思います。
少なくとも、私はありませんでしたので、
自分が納得できるようになるまで
とても時間がかかりました。

その患者さんにとって、
一つの最善の治療方針に辿り着くためには、
歯科医学的情報だけでなく、
患者さんの価値観や環境なども大きく影響します。

今回の青杉さんとの物語では、
同じ患者さんでも、
タイミングによって、
その方の環境や、価値観も変化し、
それが、治療方針に大きく影響している
ことがわかるかと思います。

そして、歯科医師側も、
その患者さんにとって、
最善の治療方針をみつけるために、
色んな迷いや葛藤を抱えながらも、
できるだけ患者さんによりそう覚悟をもって、
向き合っているんだとご理解頂きたいと思います。

(おわり)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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