この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。
前回のおさらい(→第33回へ)
「次は何をするんですか?」
「睡眠中に使用する
マウスピースをつくることを
お勧めします。」
「マウスピース?
それって歯を守るための
ものですか?」
「はい、そのとおりです。
歯を守るためというは
大きな目的ですね。
歯ぎしりや食いしばりの
癖のある方は、
歯に想定以上の力
がかかっちゃうので、
その力から歯を守って
あげなければなりません。
それと、咬むときに使う
筋肉の緊張を緩ませることや
アゴの関節への負担を
軽くする目的もあります。」
歯ぎしりや食いしばりを
していたり、舌(した)が
うまく動いていなかったり
する方は、口の中をみると、
頬の粘膜や舌に歯の圧痕が
ついていたり、
歯がすり減っていたりする。
特に、舌があまり
動いていない方は、
舌の奥の方が
白くなっていたりもする。
通常、舌が動くことで、
口の中にある唾液は
循環され、口の中は
きれいに保たれるように
なっている。
舌が動かなくなると
唾液は停滞して、
汚れも停滞しやすいため
舌の上にたまってくる。
これを舌苔(ぜったい)と言い、
細菌のかたまりで
これにより舌が白くみえる。
(※公衆トイレをイメージ
してほしい。定期的に水が
流されていれば汚れが停滞
しないが、水が流れず停滞
しているトイレは、汚れやすい。)
これらの変化は
口の周囲の筋肉が
緊張している証拠と言える。
(舌もほとんどが筋肉で
できている。)
吉沢さんの場合、
それが顕著に表れていたし、
だからアゴがズレて、
前歯の歯並びまで
変化を起こしてきたとも言える。
できるだけこの緊張を
緩ませたいが、なかなか
簡単なことではない。
日中は意識的に
コントロールできることもあるが
睡眠中は非常に難しい。
そのため、
睡眠中の筋肉の緊張緩和や
歯の保護を図るために、
マウスピースの使用をおすすめした。
「それと、インプラントを
ご希望されている歯の欠損部には、
一旦入れ歯を入れてきましょう。」
夜間はマウスピース、
日中は右下奥歯の欠損部に、
いったん部分入れ歯を入れる。
この二つで、
咬み合わせの安定を図り、
大きな問題が出ないようなら、
インプラント治療に進んでも
良いのではないかと考えた。
ただ吉沢さんの表情が
どこかすっきりしない。
なにかを聞きたそうな感じだ。
一体どうしたのだろう?
私は、何か納得できないことを
言ってしまっているのだろうか?
(次回に続く)
※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。
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