教えて内藤先生 第76回 「前歯の歯並びを治したら出っ歯になった?」

この連載について
歯科医と患者さんとの間にはギャップがある。それが不満や後悔につながることも多い。歯科医の内藤は、そのギャップを埋めるため週に一度、落ち着いて患者さんと話せる時間をつくることにした。するとそこに毎週訪れるようになった小学5年生のゆめは君。内藤とゆめは君。患者さんからのご質問やご意見をもとにした2人の気さくな会話から、歯科医の想いや常識がみえてくる。歯科医と患者さんのギャップを埋め、お互いに後悔のない歯科医療を選択するための情報が満載。


内藤先生
話せる歯科医

ゆめは君
辛口な小学校5年生

内藤先生
この前、部分矯正で歯並びを治したっていう患者さんから相談を受けたんだけどね。

ゆめは君
ぶぶんきょうせい?

内藤先生
うん。全体的に歯並びを治すわけじゃなくて、部分的に歯並びを治す治療。その患者さんは、上の前歯6本だけを治したって。

ゆめは君
へえ。そんなのあるんだね。

内藤先生
うん。今部分的に見えるところだけを、目立たずに早く治すっていう治療が流行ってはいるよね。

ゆめは君
そうなんだ。で、何の相談だったの?

内藤先生
その患者さんは、確かに前より上の前歯の歯並びが良くなっていたんだけど、きれいな歯並びの出っ歯になっていたんだよ。

ゆめは君
え?出っ歯?

内藤先生
そう。歯並びがガタガタになっちゃうのは、歯の大きさに対して、歯がちゃんと並ぶためのスペースが小さいからなんだけどね。

ゆめは君
ん?

内藤先生
例えば、電車なんかで普通の人なら6人がちょうど座れるようなイスがあるとするよね。でも太った人だったらそこに5人しか座れない。もし6人座ろうと思ったらはみ出ちゃう。歯並びがガタガタになるのもそんなイメージね。

ゆめは君
なるほど。

内藤先生
もし太った人でもちゃんと6人イスに座らせようと思ったらどうする?

ゆめは君
え?イスを大きくする?

内藤先生
そうだね。確かにそれも方法の一つ。だからイスを大きくする、つまりスペースを拡大するというアプローチもある。ただこのアプローチは子供のときにはできるけど、大人になると難しい。

ゆめは君
大人になるとイスの大きさを変えられない?

内藤先生
少しは変えられる場合もあるけど、かなり難しくなる。だから大人になると、一人ひとりにやせてもらうか、人数を減らすという選択肢になってくる。

ゆめは君
やせてもらうか、人数を減らす?

内藤先生
やせてもらうっていうのは、歯を少し削って歯を小さくすること。もちろん歯の寿命は変わらない程度にね。それと人数を減らすっていうのは、歯を抜くってことね。

ゆめは君
どっちもあんまりやられたくないね。

内藤先生
そうだよね。だからその患者さんも、歯を抜くってことは絶対嫌だってことで今回の治療になったみたいなんだけど。そうすると、むりやり太った人をきれいに並べるとしたら、並ぶアーチを変えるしかない。その患者さんでいうと、歯を前に出して出っ歯にすることで歯の並ぶアーチを大きくしてスペースを広げた。

ゆめは君
それできれいな出っ歯になっちゃったと。

内藤先生
その通り。特にその患者さんは矯正で治したすぐ奥の歯が内側に倒れているような歯並びだったから余計に前の6本の歯が出ているのが目立つようになっちゃった。で、もうちょっと何とかならないかとその矯正歯科医に相談したら、歯を抜いて全体的に歯並びを治さないとそれはできませんよと言われたらしい。

ゆめは君
あらま。患者さんからしたらこんなはずじゃなかったって感じだね。

内藤先生
患者さんからしたらそうかもしれないね。でもたぶんその矯正歯科の先生も、説明していたとは思うんだよね。歯を抜かずに部分矯正するとしたらこうなりますよって。

ゆめは君
患者さんがあまり理解していなかった?

内藤先生
うーん。イメージはできていなかっただろうね。矯正歯科の先生がこうなるよって思っているイメージは伝わっていなかったとは思う。

ゆめは君
で、どうすることになったの?

内藤先生
その患者さんの価値観として、歯を抜きたくないっていう思いは譲れなかったみたい。でも歯を少しなら削ることは受け入れられるみたいだった。だから、歯を少し削ってもう少し内側に並べたらどうかと。

ゆめは君
それで患者さんも満足できたら良いね。

内藤先生
そうだね。矯正治療に限らないけど、歯科治療って何を目的にどこまで治すのかっていうことを患者さんと良く話し合って共有しておかないと、歯科医も患者さんもお互い不幸になっちゃう。

ゆめは君
不幸になっちゃう?

内藤先生
何かを達成するためには、何かが犠牲になることもあるからね。何を犠牲にはできて、何を犠牲にはできないのか。それをちゃんと話し合っておかないと、お互い一生懸命やっていても不満や後悔につながってしまうことがあるから。

(次回へ続く)

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