教えて内藤先生 第62回 「根拠は自分で積み重ねるもの?」

この連載について
歯科医と患者さんとの間にはギャップがある。それが不満や後悔につながることも多い。歯科医の内藤は、そのギャップを埋めるため週に一度、落ち着いて患者さんと話せる時間をつくることにした。するとそこに毎週訪れるようになった小学5年生のゆめは君。内藤とゆめは君。患者さんからのご質問やご意見をもとにした2人の気さくな会話から、歯科医の想いや常識がみえてくる。歯科医と患者さんのギャップを埋め、お互いに後悔のない歯科医療を選択するための情報が満載。


内藤先生
話せる歯科医

ゆめは君
辛口な小学校5年生

内藤先生
昔ね、指導してくれた歯科医の先生がね、歯の自然経過を調べたいって言ってたんだよね。

ゆめは君
しぜんけいか?

内藤先生
うん。自然経過っていうのは、何もしないでみていたらどうなっていくのかってことね。

ゆめは君
虫歯になったりしても、治療しないってこと?

内藤先生
あきらかに虫歯が進行しているのに何もしないっていことは、倫理的に違反するからもちろん治療を促したり、何らかの対応が取られることになると思うんだけど。

ゆめは君
あ、そうなんだ。

内藤先生
もし研究を計画しようとした場合、研究のために協力してくれている被験者が、明らかに不利益なことになっちゃうような研究はできないからね。

ゆめは君
じゃあ何もしないでどうなるかっていうのはみれない?

内藤先生
患者さんが自然に行動して行われる治療はされるよね。それでいてどうなるかをみていくことになる。ただその時は、1年に1回レントゲン写真を撮っている人達のレントゲンを集めて、その経過を追ってみようってことだったんだけど、なかなかそのレントゲン写真が集まらなくて。

ゆめは君
集まらなかった?

内藤先生
うん。そうこうしている間に、その指導医の先生が体調を崩して亡くなっちゃって。

ゆめは君
え?そうなの?じゃあ結局できなかったの

内藤先生
うん。だからそれがすごく心残りではあるんだよね。

ゆめは君
そうだね。

内藤先生
その先生はね、そのレントゲンを集めて経過をみることで、一般的にどういうふうに歯を失っていくのかっていうことを調べたいって言ってたんだよね。そういう自然経過ね。

ゆめは君
なるほど。

内藤先生
その自然経過がわかれば、早い段階で手を打つことで、良い方向に向かわせられるからって。

ゆめは君
そういうことって今はわかっているの?

内藤先生
なかなかそういう研究って難しいんだけど、大きな傾向はわかってきてはいるよね。でも個々の患者さんがどうなっていくかの予測はやっぱり実際に関わった歯科医が判断できないといけないしそのデータを蓄積して検証していかないといけない。

ゆめは君
先生も個人で続けているの?

内藤先生
そうだね。自分が所属している医院でもできるだけ定期的にレントゲン写真や口の中の写真、検査をさせてもらって、データを蓄積しているよ。

ゆめは君
へえ。すごいね。

内藤先生
その亡くなられた指導医の先生に言われていたことができなかったっていう心残りがあるし、自分が普段患者さんと関わって判断するときにとても重要な情報になるからね。

ゆめは君
今はそれでかなり色んなことがわかる?

内藤先生
そうだね。だいぶ色んなことが分かってきたから、患者さんとこれからどうすかを決めるときに、前より根拠をもって伝えられるようになってきたよ。

ゆめは君
それなら患者さんも安心だね。

内藤先生
でもまだまだ分からないこともあるし、大変申し訳ないけど、後から振り返って、あの時こうしたら良かったと気づくこともある。

ゆめは君
まだまだわからないこと多いんだ?

内藤先生
そうだよ。白黒はっきりわかっていることって意外と少ない。グレーな情報の中で、できるだけ自信をもって決めることができるようにその根拠を自分の中で積み重ねていくしかない。

ゆめは君
自分で積み重ねるしかないか。

内藤先生
そう。10年くらいしてようやく少し積み重なってきた感じがするよ。

ゆめは君
大変なんだね。

(次回へ続く)

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