話せるブログ 第89回 感性&思考「ジレンマがある歯科治療の要素」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

少し語弊があるかもしれませんが、
歯科治療とは簡単に言うと、
悪いものを取り除き、
失われたものを補うこと。

少し専門的に言いかえると、
病原の除去と、
形態や機能の回復。
この2つの大きな要素があり、
この2つの要素は、
ときに患者さんにとって、
相反する結果となることがあります。
だからこの2つの要素のバランスによって、

患者さんの健康状態、
生活の質、満足度は変わってきます。

2つの要素のバランスということは、
悪い部分はあるけど、
形態や機能面を考えて
取り除かないこともあるということ。
いやいや悪い部分は取り除かないとだめでしょ。
そう思われるかもしれません。

でも取り除いたら、
形や機能が失われてしまい
生活の質が低下してしまうとしたら
どうでしょうか。

そうなったとき今度は
次のように思う患者さんも多いです。

悪い部分があるっていうけど、
絶対に取り除かなければ
いけないのか?って。
このままではだめなのか?って。

特にもし痛いなどの
困っている自覚症状がなければ
よりそう思いますよね。
患者さんからしたら、
まだ普通に使えている歯を
取りましょうと言われることに
なりますから。

実際にはそんなとき、
病原除去を優先に考えて、
取り除くこともありますし、
形態や機能面を重視して、
そのままにしておくこともあります。
その患者さんの状況、価値観、性格など、

その背景によってもそのバランスは
変わることがあります。

悩ましい問題ですが、
病原を残すことがあるというのは
歯科医療の特殊性かもしれません。
(実はそれによって、
全身的な健康の不具合が
出ていることもあるのですが・・・。)

たとえば、がんという病気で考えてみましょう。

がんが見つかりました。
取り除かなければなりません。
でも取り除けば、
その部分の形や機能が失われてしまいます。
そうしたら、生活の質は下がってしまいます。
でもこのままにしておいたら、
がんがどんどん拡がって、
命を脅かす可能性が高くなります。

そのことは多くの人が知っていますよね。
だから痛みなど自覚症状がなくても、
がんが発見されたら、
何の疑いもなく、取り除く人が多いと思います。
仮にその後の生活の質が低下する
可能性があるとしてもです。
(もちろんそれ以外の方法を模索する方もいますが。)

また、がんではなくても、
身体のどこかで細菌感染が起こり、
腐ってきている状況があったらどうでしょうか?
そのままにすることはほとんどありませんよね。
基本的に取り除くことが行われます。

でも虫歯の場合には違います。
進行してきていても、
まだ痛くないし困ってないから
このままにしてほしいって
言われることも結構ありますし、
実際にそうすることもあります。
現実問題、
患者さんは痛くもなく、
困っていなかったのに、

治療として歯を抜くことになり、
そしたら咬めなくなったり、
しゃべりずらくなったりと、
困り出すこともありますから、
一概にそれが間違っているとは言えません。

これは歯科医が行う治療に
先に述べたように、
患者さんの実感する結果からしたら
相反することがある2つの要素が
混在しているからなんです。

したがって、患者さんにとって、
最もメリットが高い治療方針を選び、
なおかつ、より納得できる形で
治療をすすめるためには、
歯科医と患者さんの間で、
このようなジレンマのある
歯科治療の2つの要素を区別して
理解し、
共有しておく必要があると思います。

(次回へ続く)

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