話せるブログ 第21回 物語「入れ歯満足度を高める歯科医院の総合力 (第4話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい(→第20へ)

実際に入れ歯治療に入るときの
松川さんの表情はとてもやわらかく、

すでに緊張や警戒など欠けらもなかった。

中垣歯科医院では、
入れ歯治療に先立ち、
歯科衛生士が主体的に患者さんと関わり、
口の中の環境を整える。

私が実際に入れ歯治療に
取り掛かるときには、

すでに歯科衛生士や
その他のスタッフの温かい関わりが、

松川さんの緊張や警戒を見事に解いていた。

そして、
松川さんの価値観や背景について

とても聞きやすい土壌ができていたのである。

「すごいやりやすくなってる。」

私がそう思ったのは、
緊張や警戒が解かれ、
コミュニケーションが良好になったからということもあるが、
実際に、口の環境や機能にも変化が起こっていたからである。
それが、緊張や警戒を解かなければならないふたつめの理由でもある。

患者さんに入れ歯を使用して頂くためには、
口の環境や機能が整っている必要がある。

口の環境や機能が良くない方は、
ただ歯を入れたら咬めるようになるかというとそうではない。

入れ歯自体は、
失われた機能を回復させるための
道具にすぎない。
歯科医は、その方の状況に合わせて
使える入れ歯をつくることはもちろんだが、

その方の入れ歯を使う能力も同時に高めなければならない。

その患者さんに合った入れ歯をつくるため、
そしてその入れ歯を使用して頂くためには、

それを受け入れて頂くための準備も大事なのである。

松川さんの場合には、
口唇や頬、舌に緊張はあったが、
機能的にはそれほど問題はなかった。
ただ、口の中は乾燥しており、
衛生状態はあまり良くない状態だった。

入れ歯で型取りをする直前、
松川さんは私にこんなことを言っていた。

「担当してくれた衛生士さんが、
とてもていねいに、口の中の清掃方法を教えてくれたんです。
それに、舌の動きを確かめてもらったら、
良く動いてるから大丈夫ですって言われたのがとてもうれしかったんです。
あれは本当うれしかった。」

そのときは、
口唇や頬、舌の緊張もだいぶ緩和されており、
口の中の清掃状態も良くなっていた。
唾液が少なく、
口の中の乾燥は少しあるが、
松川さん本人が感じる口の渇きが大分良くなっているとのことだった。

入れ歯を使用する上で、
口の中の衛生状態や、
口の中が潤っていることはとても大事なことである。
だから、その状態になっていることはとても助かる。
それと、
口の中の緊張も緩和されていることは大きい。
実はそれによって、入れ歯の形が変わることがある。

入れ歯治療の難しいところのひとつとして、
形がはっきり見えないところがある。
そしてその形は、
タイミングや条件によって変化するからさらに難しくなる。

歯の治療を行う場合、
歯の形は変化しない。
だから、つめものや被せものは
形としてとらえやすいし、合わせやすい。

ところが、
入れ歯の場合には、その患者さんの、
頬や舌のような動きがあるところに合わせなければならない。
大きすぎず、小さすぎず。
その患者さんの口の中の動きに合う入れ歯の形をとらえなければならない。

警戒や緊張が緩めば口の中の動きも変わる。
口の中の動きが変われば、入れ歯の形も変わる。

入れ歯作製のとき、
緊張がゆるんでいる方が、
良い型取りができるし、
より正確な咬み合わせもつくりやすい。

だから患者さんの緊張や警戒が解かれていると、
歯科医はとてもやりやすい。
その準備を歯科衛生士やスタッフが
行ってくれる環境はとても素晴らしいと思う。

その環境に感謝しつつ、
私は松川さんと十分話し合いながら、
入れ歯治療を進めていった。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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