この連載について
歯科医と患者さんとの間にはギャップがある。それが不満や後悔につながることも多い。歯科医の内藤は、そのギャップを埋めるため週に一度、落ち着いて患者さんと話せる時間をつくることにした。するとそこに毎週訪れるようになった小学5年生のゆめは君。内藤とゆめは君。患者さんからのご質問やご意見をもとにした2人の気さくな会話から、歯科医の常識や日常がみえてくる。歯科医と患者さんのギャップを埋め、お互いに後悔のない歯科医療を選択するための情報が満載。
内藤先生
話せる歯科医
ゆめは君
辛口な小学校5年生
おすしの職人さんと歯医者さんが似てるって言ってたね?
(→第6回)
うん、かなり似ていると思うよ。興味があってすし職人さんの本を読んでみたんだけど、知れば知るほど、歯科医の世界と似ているなって感じるね。
すごいおすしの職人さんは常に妥協しないで最高のものを出すって。
歯科医も、常に妥協しないで最高の治療を提供する。・・・っていうのは理想だよね。
もちろん、患者さんの状態を悪くさせようとか、手を抜こうとかってわけじゃないんだけど、色んな制約のある現実の中で、本当はこうやりたいけど、やれないこともあるっていう感じかな。
そうだね。時間的制約もあるよね。それと経営的な部分もあるよね。
うん。多くの歯科医は、自費診療だけでなく、保険診療も行っているんだよ。
そう。自費診療は自分で治療の内容や値段を決めるから、自分が妥協しない最高の治療を提供することに近い。ただ保険診療というのは、各それぞれの検査や治療に対して、国から値段が決められているんだよ。この病気の患者さんに、こういう検査や治療をしたら〇〇円だよって。
それでこの値段は全国一律で勝手に変えられないんだよ。それに、決められた検査や治療以外のことをしても国が値段をつけていないものは費用を貰うことができない。
それなら値段が決められているもの以外はできるだけ省いた方が儲かるね?
だから妥協せざる得ないってこと?妥協するくらいならやらなきゃ良いのに。
保険診療は、みんなが一定水準の医療を受けられるように考えられた仕組みなんだけど、現状の歯科医療の場合、良い部分もあるし無理がある部分もあるよね。それに保険医療機関だったら保険診療ってやらなきゃいけない義務なんだよ。
いまいち良くわかんないから、おすしの職人さんで例えて教えてよ。
たとえば、お腹をものすごく減らしてかけこんだお客さんには、こういうおすしのセットを〇〇円で出してほしいって国から決められているような感じ。どこのおすし屋さんに行っても、値段は一律で、同じようなおすしのセットが提供される。
あ、なるほど。そのお寿司のネタや内容は、本来自分が出せる最高のおすしではないということか。
そう。ただプロなら、お寿司の内容や値段が決められていても、技術や経営的努力で、お客さんにできるだけ良いものを提供しようって思うよね。
でもそこに時間やコストをたくさんかけてたら、経営的には難しくなるよね?だから、決められた条件の範囲で、何とか良いおすしを出すってことだけど、自分が出せる最高のおすしではないよね?これって妥協かな?
うーん。値段とか内容とかを、自分で決めることができないなら、その中でやるしかないかー。難しいね。
うん。理想と現実にはギャップがあるからね。色んな葛藤を抱えながら、徐々に理想に近づいていくしかないんだよね。
(次回へ続く)
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