この連載について
歯科医と患者さんとの間にはギャップがある。それが不満や後悔につながることも多い。歯科医の内藤は、そのギャップを埋めるため週に一度、落ち着いて患者さんと話せる時間をつくることにした。するとそこに毎週訪れるようになった小学5年生のゆめは君。内藤とゆめは君。患者さんからのご質問やご意見をもとにした2人の気さくな会話から、歯科医の想いや常識がみえてくる。歯科医と患者さんのギャップを埋め、お互いに後悔のない歯科医療を選択するための情報が満載。
内藤先生
話せる歯科医
ゆめは君
辛口な小学校5年生
前にドラマでみてて疑問に思ったことがあるんだけど?
お医者さんのドラマで、お医者さんは患者さんにだいじょうぶって言っちゃダメだって。なんでなの?
あー、確かに医療の世界では、だいじょうぶとかって、簡単には使えない言葉かもね。
うーん、だいじょうぶって言っててもだいじょうぶじゃないときがあるかもしれないからかな。後から、あの時だいじょうぶって言ってたじゃないかって言われそうだからかな。
だいじょうぶって思っててもだいじょうぶじゃない?間違えてたってこと?
結果的には間違えてたってことにはなるよね。でもそれは結果論であって、そのときにそこまでわからなかったとしても仕方ないってこともあるんだよね。
そのときはわからなかった?本当にだいじょうぶって思ってたってこと?
そうだね。なんでも絶対ってことないじゃない?医療の世界も絶対なんてないからね。不確実なことなんていっぱいあるよ。
それに、前も言ったことがあるかもしれないけど、そのとき起こる可能性が低いことはあえて伝えないこともあるんだよね。でも悪いことも起こる可能性があるのにだいじょうぶと言ってしまったら実際に悪いことが起こってしまったら困るじゃない?
たしかに。悪いことが起こる可能性があるならだいじょうぶって言えないかも。
だから軽はずみにだいじょうぶって言えないんだと思う。医療者のだいじょうぶっていう言葉って結構患者さんにはインパクトが大きい言葉だからその言葉だけが患者さんの記憶に残ったりする。
だいじょうぶって言われるとそれだけで良くなる気もするからね。患者さんとしてはだいじょうぶって言ってほしいよね。
そうだよね。患者さんを安心させてあげられる良い言葉だし、それだけで本当に良くなる患者さんもいるからね。だいじょうぶっていう言葉の力って本当に大きいと思うよ。
そうだね。ただ、だいじょうぶっていう言葉って人によってとらえ方が違うことがあるから使うことがむずかしいんだよね。
そう。だいじょうぶっていう言葉って、使う状況や場面によって、その意味や範囲は変わると思うんだけど、その意味や範囲がだいじょうぶと言っている医療者と、言われた患者さんではとらえ方が違うことがある。
たとえば、歯医者の場合でいうと、患者さんから、この歯は治療しなくてだいじょうぶですか?って聞かれたとするじゃない?
そのときに、歯医者が「○○だから治療しなくてもだいじょうぶですよ」と伝えるとするじゃない?このとらえ方が患者さんによって違うことがあるんだよ。
だよね。患者さんには歯医者が言った○○だからという部分はあまり記憶に残らないことが多い。でも歯科医としては治療しなくてもだいじょうぶっていうのはこんなことを前に伝えてたりする。「問題がある歯ではあるけど、治療介入が必ずしも患者さんにとって良い結果になるとは限らないから今はこのままにしておいた方が良い。だから今は治療しなくてもだいじょうぶですよ。」とか。でも患者さんは、「良かった。じゃあ治療しなくてもだいじょうぶなんですね。」と受け取る。
そうなんだよね。治療しなくだいじょうぶかどうかの結論だけがほしい患者さんもいるからね。ただその治療がしなくてもだいじょうぶという結論が、この歯は問題ない歯だという解釈に変わってしまうことがあるんだよ。
あらま。その解釈でもし悪くなったら、だいじょうぶって言ってたのにってなっちゃうかもね。じゃあ先生はだいじょうぶって言葉はあんまり使わないの?
いや使っているよ。ただ結構考えて慎重に使ってるかな。
どんなときに自分がだいじょうぶって言うかを事前に考えて決めているってこと。
自分がそのとき使うだいじょうぶという言葉の解釈をちゃんと説明できるときに使っているかな。私はこれこれこう思うので、だからこういう意味でだいじょうぶって言ってますってこと。そうしないと一貫性がでないからね。
へえ~。だいじょうぶって言うだけでもいろいろ考えているんだね~。
(次回へ続く)
この記事へのコメントはありません。