話せるブログ 第44回 物語「親からのおくりもの~しぶしぶ連れてこられた患者さん~(第3話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい→(第43へ)

「今日の処置は終わりましたよ。
痛みが強いようですが、
まだ歯髄を残せる可能性は
十分にあります。
歯髄はできるだけ
取らない方が良いですので
今日の処置で一度経過をみましょう。」
※歯髄・・・歯の神経のこと。

今回痛みが出て、
困っているのは、
応急処置を行った部位だが、
他の部位にも、
進行している虫歯がたくさんあった。

(このままではまずい・・・。)

今回私たちの医院に
淳也君がわざわざきてくれて、
(お母さんが連れてきてくれて)
私たちが、歯髄を取るなどして
簡単に痛みを取って終わり
というようなその場しのぎの
関わり方をした場合に、
淳也君の将来は
一体どうなってしまうだろうか。

今、歯髄を取ったとしたら、
今困っている強い痛みは
すぐに楽になる。
でも歯髄を取ってしまったら、
どんなにきちんと歯髄を取る
治療をしたとしても

おそらくこの歯を生涯抜かずに
終えられる可能性はかなり低い。
どこかで歯を失うことになる。

この歯に限らず、
他の歯も、
この歯と同じように
近い将来痛みが出てきて、
また同じような関わりをすれば
さらに加速度的に、
歯を失っていくことになるだろう。

しかも歯髄を取った歯は
細菌が増えやすい。
それが体の健康に与える
悪影響はまだまだ未知数でもある。

淳也君の健康寿命に
違いが出る可能性が高い。

そんな将来予測があるのなら、
今、淳也君にどう関わり、
何をするべきかを慎重に
判断しなくてはならない。

私たち歯科医は、
今患者さんの
困っている問題を
どうするかという、
短期的な目線も大事だが、
自分の関わりや行うことが、
今後の患者さんの将来を
どう変えるのかというような
長期的な目線をもつことも
とても大事だ。

では淳也君の将来を考えて、
今どのように関わることが
良いのだろうか?

私たちはそれを考えた。

まず必要なこと。
それは淳也君に、
今の自分の状態を

ちゃんと理解してもらうこと。

そのために、
まずは虫歯って
どういうもので、

なんでできるのか、
なんで治療が必要なのか、
などなど、
根本的なことを理解して
もらわなくてはならない。

そして長い目でみて、
淳也君の将来が
良い方向にいくように
導かなくてはならない。
たとえ、今はうざがられ、
嫌われようとも。

そのように覚悟を決めて、
まずは次回必ず
来てもらうようにと、

それだけは約束して
その日は終わりにした。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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