話せるブログ 第7回 ルーツ「父の交通事故 ①」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

「内藤!ちょっと来なさい!」

部活の顧問の先生が
怒っているとも取れるような大きな声で、
わたしを呼んだ。

それは、わたしが中学2年生の
夏休みのこと。
中学では、バスケットボール部に
所属していた私は、夏休みだったが、
学校の体育館で練習をすることが多かった。

ちょうどそのときは、
試合形式の練習をしているときだった。

「何かな?特別何も悪いことはしていないような?」

わたしはそう思いながら、
ダッシュで先生にかけよった。
呼ばれたらダッシュして向かうのが

お決まりになっている。
だからだいたい呼ばれるとダッシュして向かう。
しかも、怒られるとなればおさらだ。

「何でしょうか?」

呼ばれる理由も、
怒られる理由も思い当たらないわたしは、
怪訝な顔で先生に聞いた。
しかし先生からの返答は、
思いもよらないものだった。

「お前のお父さんが交通事故で病院に運ばれたと連絡がはいった。
 親戚のおじさんがすぐに迎えに来るらしいから、一緒に病院へ向かいなさい。」

「え?交通事故!?」

ただわたしは、
先生の言葉を聞きながら、
「何だか、こういうのテレビドラマのシーンでありそうだな。」
なんてことを、考えるほど、
思ったより冷静な自分に驚いていた。

すぐに着替えて学校を出ると、
学校のすぐ近くのドラッグストアの駐車場に
親戚のおじさんが車を停めて待っていた。

「お父さんの容体は?」

「詳しいことはわからない。
ただ事故直後の意識はあったらしく、
自分で会社に連絡をしたらしい。
姉ちゃん達はもう病院向かってる。」

親戚のおじさんは、母の弟で、
ちょっと強面の豪快な人だ。

ウソかホントかわからないが、
高校生の頃に、
地元の暴力団ともめ事を起こすこともあったらしい。
そのエピソードを聞いたときは、
だいぶやばい人だなって思ったものだ。
子供たちからすると、
怒ったらこわいけど、
とても面倒見の良い優しい人なのだが。

母方の親戚は、どうも強面が多い。
祖父も、小さな会社をやっていたが、
強面で、実際に恐
い社長で有名らしかった。

以前、祖父とおじさんが、
親子げんかをしたとき、
家が壊れるんじゃないかと思うくらい
激しかったのを覚えている。

わたしは病院にむかう車の中で、
父が言っていたことを思い出していた。

「確かにおじいちゃんは恐いと評判だったよ。
お母さんと交際していると周りが知ったとき、
あの恐い社長の娘と良く付き合ったなと、
周りが驚いていたんだよ。
ただその評判とは裏腹に、
最初におじいちゃんに挨拶に行ったときには、
すごくあたたかく迎えてくれてねえ。
とても愛情深い優しい人だよ。」

恐くて厳しい人ほど、
愛情深かったり、
責任感が強かったりということはある。
その気質を受け継いでなのか、
わたしの母も、愛情深いが、
確かに怒るとこわいなあ。
その母は今いったいどんな気持ちで病院へ向かっているのだろうか。

わたしはそんなことを思いながら、
だまって車に乗っていたと思う。

10分くらいで、
私たちは、病院の救急入口に到着した。

(つづく)

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