話せるブログ 第13回 物語「妻を亡くした患者さんの決断(第5話)」 

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

(前回のおさらい) 第4話へ

歯科治療にとても前向きな青杉さん。
迷いなく、できる限りのことをしてほしいと。

そのご希望に、少し躊躇する歯科医師である私。

5年前とは全く違う構図。

私はなぜ躊躇してしまうのか?

それは、治療するにあたり、
多くの労力、時間、費用を費やし、
その結果が理想通りに

良い結果になるとは限らないから。

理想とまではいかなくても、
患者さんの期待しているレベルまで到達すればまだ良い。
それすら下回り、
やらなきゃ良かったと後悔させてしまったら私も心が痛い。
自分の心が痛む行為は、
絶対に続けることができない。

ただどうしても歯科医と患者さんとで
結果への認識が異なっていることがある。
失った歯は元にもどらない。

人工的に再建していくことになる。
その場合には、
本当に元通りの形や機能が再現されるわけではない。
だから、歯科医師側が、
自分の出来得る限りの良い治療をしたと思っていても、
患者さん側は全然満足していないという事態もあるかもしれない。

例えば、はじめて入れ歯が入るときなどは、
今までの自分の歯とは明らかに質が下がる。
だからそのときは、
思っていたのとは違うと、後悔することもあるだろう。

現在の歯科医療では、
完全に元通りというのは難しい。
それに一つの完璧な方法があるのなら、

そもそも他の方法など出てこない。
完璧じゃないからこそ、
色んな方法が出てくるのだ。

だからどの方法にも、
メリットと同時にデメリットがある。
どのメリットの獲得を目指し、
それに伴うどのデメリットを受け入れていくか。
それを決めなければならない。
後悔しないためには、
そのための話し合いを積み重ねるしかない。

特に、今回の青杉さんの場合、
咬み合わせを大きく変えたら、
私たちからみたら、
良くなっていると思っても、
患者さんは違和感が大きく、
咬み辛くなったと感じるかもしれない。
ただそれはもうやってみないとわからない部分もある。
実際には、
青杉さんがどこまで許容・適応できるのかを確かめながら、
最終的な咬み合わせを決めていくことになる。

「私が勝手に躊躇していても仕方ない。
これからやるべきこと、
治療で起こり得る良い結果、良くない結果など、
自分の心が痛まなくなるまで、
正直にとことん話し合おう。
青杉さんが最も後悔の少ない選択をできるように。」

そう思い、私は、青杉さんに
咬み合わせを大きく変えていく場合と、
そうでない場合、
またそれをインプラントで対応する場合と、
部分入れ歯で対応する場合など、
いくつかの治療方針について、
そのメリットやデメリット、
治療期間や費用などの説明を始めた。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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