教えて内藤先生 第92回 「患者さんが訴えることだけを聞くのはだめな歯医者さん?」

この連載について
歯科医と患者さんとの間にはギャップがある。それが不満や後悔につながることも多い。歯科医の内藤は、そのギャップを埋めるため週に一度、落ち着いて患者さんと話せる時間をつくることにした。するとそこに毎週訪れるようになった小学5年生のゆめは君。内藤とゆめは君。患者さんからのご質問やご意見をもとにした2人の気さくな会話から、歯科医の想いや常識がみえてくる。歯科医と患者さんのギャップを埋め、お互いに後悔のない歯科医療を選択するための情報が満載。


内藤先生
話せる歯科医

ゆめは君
辛口な小学校5年生

内藤先生
前回、人の話をちゃんと聞くって結構大変だよねって話をしたよね?覚えてる?

ゆめは君
うん。覚えてるよ。

内藤先生
このまえ患者さんが言ってたんだけどね、「これまで通っていた歯医者さんは、自分が何か困ったことを訴えたらその部分を治療するっていうその場限りの治療の繰り返しだったから、このままで良いんだろうかと不安で来ました。」って。

ゆめは君
患者さんが困って訴えていることを治療する?それは良くないの?

内藤先生
一見それで良さそうだよね?患者さんが訴えていることにこたえてはいるし。たぶんその歯医者さんもそれの何が悪いのって感じかもしれない。

ゆめは君
でも患者さんは不満?

内藤先生
まあ、不満っていうより、不安って感じだったかな。患者さん自身も、自分がちゃんと言わなかったからだって言ってたし。

ゆめは君
あ、それでね。前回の話につながるわけね?

内藤先生
さすがだね~。ちゃんと話を聞けるゆめは君。

ゆめは君
まあね。その患者さんの話をちゃんと聞けてないからそうなるってことだよね?

内藤先生
そうそう。たぶん、前の歯医者さんも患者さんの訴えを聞いたとは思うんだよね?ここが痛いとか、歯がない所を歯を入れてほしいとか。そういう歯科的な問題点を。

ゆめは君
でもそれだとちゃんと聞いていることにはならない?

内藤先生
うん。その患者さんは、これまでも漠然とした歯への不安やコンプレックスがあったらしんだよね。でも患者さん自身もそのことを言わなかったから、痛い歯やぐらぐらした歯を抜く、そこに入れ歯を入れる、みたいないつもその場しのぎの治療を受けてきた気がすると。

ゆめは君
その歯への不安やコンプレックスがあることが患者さんが本当に訴えたいことだったってこと?

内藤先生
もちろんそれもあるんだろうね。でもこういうとき、本当の訴えはまだ他にあったりするんだよ。

ゆめは君
本当の訴えがまだ他にある?

内藤先生
うん。だってこの患者さんは、歯への不安やコンプレックスはずっとこれまでもあったんだよ?でも何で今になって今まで通っていた歯医者さんじゃなくて、わざわざ調べて先生の医院に来たと思う?

ゆめは君
確かに。何か特別なきっかけがなければ今までの歯医者さん行くかな?

内藤先生
そうだよね。その理由はね、その患者さんの事情にあったんだよ。

ゆめは君
その患者さんの事情?

内藤先生
そう。この患者さんは、男性で40代後半。最近、仕事で役職が上がって、リーダー的な立場になったらしんだよね。そこで人前で話をする機会が増えたんだって。

ゆめは君
へー。出世したってこと?

内藤先生
そうだね。で、人前で話しをするときに、口元の見た目や、話し方がこれまで以上に気になり出したんだって。

ゆめは君
なるほど。

内藤先生
だから、このままその場しのぎの治療を繰り返していたら不安で、これからどうなるのか、何とかできないのかと思って来たんだって。

ゆめは君
じゃあそれが本当の訴えってこと?

内藤先生
そうだね。仕事する上で大丈夫な口元を維持すること。歯が痛いとか、ぐらぐらするとか、入れ歯が合わないとか、そういう困っている症状はもちろん大事だし、歯医者としては重要な情報なんだけど、患者さんが実は本当に何とかしたい訴えは、患者さんの事情をちゃんと聞かないと出てこないんだよね。

ゆめは君
だからそれだと患者さんの話をちゃんと聞いていないことになるってことね。

内藤先生
そのとおり。何のために歯科治療をするのか、その患者さんにとって最も納得できる治療方針や治療計画は何なのか、その答えをみつけていくための最初のプロセス。歯科医が患者さんの話をちゃんと聞くってそういうこと。

(次回へ続く)

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