この連載について
歯科医と患者さんとの間にはギャップがある。それが不満や後悔につながることも多い。歯科医の内藤は、そのギャップを埋めるため週に一度、落ち着いて患者さんと話せる時間をつくることにした。するとそこに毎週訪れるようになった小学5年生のゆめは君。内藤とゆめは君。患者さんからのご質問やご意見をもとにした2人の気さくな会話から、歯科医の想いや常識がみえてくる。歯科医と患者さんのギャップを埋め、お互いに後悔のない歯科医療を選択するための情報が満載。
内藤先生
話せる歯科医
ゆめは君
辛口な小学校5年生
患者さんの中で、ときどき、歯科医に怒られるからなかなか歯科医院に行けなかったっていう人がいるんだけどね。
なんでこんなに悪くなるまで放っといたんだとか、歯磨きをちゃんとしていないからだとか。
まあ、僕もお母さんに怒られることあるけど。ちゃんと歯磨きしなさいとかって。
めんどくさいなって思うこともあるけど、なんでか歯磨きするのはそんなに嫌じゃないんだよね。
そう。物心つく前から、口や口の周りを触ったり、早くから歯ブラシを持たせたり、お母さんやお父さんの真似をさせたり。うまく歯磨きを嫌がらせずに習慣化させる取り組みをしたんじゃないかな。
ゆめは君は今虫歯もないし、口の中は良い状況だね。歯の並びや咬み合わせも良いし。構造的にもとても良い感じ。
こうぞうてき?何だかまたむずかしいこと言っているけど。歯並びとか咬み合わせって自分じゃ良くわからないけど、虫歯はないと思う。歯磨きもちゃんとしてるし。
子供の口の中をみると、どんな生活や育ちをしてきたのかっていうのがわかることも多いんだよ。
うん。口の中の形や機能、それに環境とかをみるとね。だから、子供の口は、暮らしや育ちの履歴書と言われているんだよ。
それでね、大人になったときに、もともととても厳しい条件になってしまっている人もいるんだよ。
そう。もちろんしなかったらもっと悪いけど、頑張っていてもどんどん悪くなっちゃう人もいる。
あ、だから患者さんが頑張っていないわけじゃないってこと?
うん。患者さん自身は何とか悪くならないように頑張っている。それにそうならないように何とか歯科医を頼っている。それでも悪くなっちゃう。
それで歯医者さんには、歯磨きを頑張っていないからだって怒られるのは辛いね。
そう。やっぱり皆それぞれ条件が違うんだよね。とても良い条件の中で闘っていける人もいれば、何やっても悪くなっちゃうような厳しい条件下で闘っている人もいるんだよ。
確かにね。厳しい条件の下で、歯や口の問題で困っている人は、本当に大変だから。歯科医としては、できるだけそれを良い条件にするような支援をすることが大事だって思ってるんだ。
それは大事だね。何もしなくても悪くならないような良い条件になることをみんなが望むと思うよ。
うん。それに歯科医としては、厳しい条件の下で頑張っている患者さんの気持ちも理解しないといけないよね。
そうだね。歯医者さんはそういう人を怒らないでほしいね。
歯科医も、怒るつもりも、責めるつもりもないのかもしれないけど。ただひとまとめに患者さんが歯磨きを頑張っていないからだっていう考え方は気を付けないといけないなって思う。
患者さんからしたら、歯科医なんだから助けてくれよって感じだよね?
そうだよね。それを自分の歯磨きのせいばかりにされたらつらいよね。
じゃあそんな患者さんがどんどん悪くなるのは、患者さんのせいでも、歯医者さんのせいでもない?
誰のせいってわけではないよ。今の歯科医療では、まだ太刀打ちできないことも正直あるし。
そうだよ。まだ分かっていないことだってたくさんあるよ。歯科医療も日々進歩しているから。だからここで言いたいのは、患者さんの歯磨きが悪いせいだけじゃないってことと、もし悪くなっていくとしても、その時々で最も良い選択肢を探す努力をし続けることが大事ってこと。
(次回へ続く)
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