この連載について
歯科医と患者さんとの間にはギャップがある。それが不満や後悔につながることも多い。歯科医の内藤は、そのギャップを埋めるため週に一度、落ち着いて患者さんと話せる時間をつくることにした。するとそこに毎週訪れるようになった小学5年生のゆめは君。内藤とゆめは君。患者さんからのご質問やご意見をもとにした2人の気さくな会話から、歯科医の想いや常識がみえてくる。歯科医と患者さんのギャップを埋め、お互いに後悔のない歯科医療を選択するための情報が満載。
内藤先生
話せる歯科医
ゆめは君
辛口な小学校5年生
歯医者さんて治療費がすごい高いイメージがあるんだけど?
うん。自費治療だと患者さんが全額費用を負担するんだよ。
患者さんが全額費用を負担しなくても良い場合があるの?
保険治療だと患者さんは一部しか負担しなくて良いよ。これは年齢によって負担額がちがったり、その人の状況によって負担割合が変わってくる。
日本の制度だからね。日本ならどこでも一緒だよ。国民皆保険制度ね。
うん。これはね、ざっくり言ったら、病気になった人がいたら、その人をみんなでお金を出し合って助けましょうっていうこと。
そうだね。すごい制度だと思うよ。これで助かっている人いっぱいるし、日本らしい制度だなって思うよ。
違うみたいだよ。他の国のことは詳しくないけど、他の国で医療を受けようと思ったらすごいお金がかかるよね。だから保険治療の仕組みってすごいなって思うよ。
じゃあその保険治療があるのに、なんで自費治療があるの?
歯科医の立場からすると、保険治療より自費治療の方が、より患者さんの期待に応えられるオーダーメイドな治療ってイメージかな。
歯科医療ではそう感じるね。ただ以前先生は臨床検査技師として病院につとめてたんだけど、そのときは保険治療より自費治療が良いなんていうことは全く感じなかった。
どうなんだろう?歯科医療以外の分野のことは詳しくはないんだけど、歯科医療での保険治療とは少し捉え方が違うのかもしれない。
先生からすると歯科医療以外の分野の医療はどんなイメージ?
効果が確かめられている標準治療って感じかな。全然悪くないイメージ。
最低限の治療っていうイメージかな。より多くの人たちにを最低限救うっていう意味ではとても必要なことだと思うけど、患者さん個別の期待に応えようと思ったら無理があるってことかな。
個人的にもっと求めるなら自分でお金だしてねってこと?
ひらたく言うとそうなるよね。保険治療が悪いものってわけじゃないし、否定するものでも全然ない。でもね、保険治療は皆から集めた大切なお金を使うことになるからあらかじめルールが厳密に決まっているんだよ。たとえば、虫歯の人にはこういう治療メニュー、そしてそれを行ったら〇〇円ですって。
国の偉い人たちかな。やっぱり皆から集めたお金だって限りがあるよね?だからその限られたお金の中で何とか採算のとれる治療と値段を決めないといけない。
そう。でも目の前の患者さんに一生懸命むきあって、期待に応えようとしたら既存のものでは限界がある。保険治療を進歩させようと思っても、制度として皆から集めたお金には限度があるし、もっと深刻だと判断された問題に優先的にそのお金は使われていくことになる。
やっぱりすぐに命に関わる問題とかは大きいよね。それにその皆から集めたお金をどこに使えば一番効果が高いかを国の偉い人たちは考えているんだと思うよ。
つまり歯科医療の保険治療を進歩させるお金はあんまり回ってこなかったわけね。
そのとおり。だから熱意ある歯科医の先生たちは、患者さんの期待に応えるためにどんどん歯科治療を進歩させていったんだけど、お金の問題は、患者さんから直接負担してもらう自費治療にすることでクリアしていったんだ。
じゃあ歯科医療の保険治療はあまり進歩していないってこと?
昔からあまり変わっていない。だから他の医療分野と違って、歯科医療では保険治療より自費治療の方が良い治療のイメージが強いんだよね。
ただ最近ちょっとずつ、歯科医療に力を入れると、全身的にも健康になって全体的な医療費が下げられるってことが国の偉い人たちも気づいてきたみたい。だから費用対効果が高いってことでまた少しずつ進歩しだしているよ。
それはね。保険治療は、国の全体最適としての治療だし、自費治療は個人に最適な治療だから。
(次回へ続く)
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