話せるブログ 第40回 感性&思考「治療がうまくいかないとき②」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のブログで、治療が
うまくいかなかったときの
歯科医の態度がとても重要
だと書きました。

これは、その態度次第で
患者さんとの信頼関係が
良くも悪くもなってしまう
ということもありますが、
歯科医として、
事実を見誤らないという
意味においても重要です。

先日、そのことを
感じるできごとが
ありました。

私は、週に一度、
訪問診療を行っていますが、
その訪問先の施設で、
ある患者さんの
入れ歯が外れやすいので
診てほしいと依頼を受けました。

その患者さんは、
認知症もあり、
口の中を触られたり、
口の中に何か物が入ってくる
と、大きな声を出して嫌がります。
口の不随意運動
(勝手に動いてしまう動き)
もあります。

看護師さんにその患者さんの
状態を確認すると、
食べる量も減ってきており、
脱水もあり、看取りの段階に
入っているとのこと。

だから入れ歯を調整して
どんどん食べてもらう
ということはむずかしい段階に
入っている可能性はある。

ただ介護スタッフの方も
とても熱心で、
少しでも食べてもらえる

ようにと考えていて、
もしかしたら入れ歯や
口の中に問題があるのかも
しれないからそれを
知りたいとのことでした。

2回ほど入れ歯の調整を行い、
次にその患者さんのもとに
お伺いしたときのこと。

施設の介護スタッフに
その患者さんの状態を
お聞きしたときに、
ここ最近はあまり
入れ歯を使用していない
とのことでした。

入れ歯を入れること自体も
拒否が強く、
また入れ歯を入れられたとしても
スプーンを咬んで離さず
そうこうしている間に
入れ歯が外れたりして
なかなか食べることが
うまくすすまないとのこと。

入れ歯を外したときの方が、
食べる量も増えるので
今は入れ歯を外すことの方が
多いとのことでした。

患者さんは何とか
嚥下(飲み込むこと)は
できていたので、
ペースト食を
入れ歯を使用せずに
食べていました。

入れ歯を使用することは、
口の機能や環境を
維持したり、
口呼吸を鼻呼吸にするような
呼吸の状況を整えたりと、
その意義はいくつかありますので、
実は咬まないから
入れ歯はいらないという
簡単な話ではありません。

ただ入れ歯は、
その患者さんの
生活の質を上げたり、
健康を維持するための道具です。

患者さんの状態によって
その使用方法も変わります。
栄養摂取を考えたら
入れ歯をしない方が良い
状態の方もいます。

目的はその患者さんが
その人らしく生活できる
ように支援すること。
入れ歯をすることが
目的ではありません。

その場の実態にあわせた支援を
行うためには、いつも身近でよく
みてくれている介護スタッフに
その患者さんの状態を、
聞かなければなりません。

ところが今回、
その経過を聞くときに
介護スタッフの方が
なんだかとても言いずらそうに
していたんです。

私はそのことが何だか
気になったので、
後でそのスタッフに
診療の結果を報告し、
少し話をしました。

「入れ歯を外した方が
食べてくれているようだったら
今は外しておいてください。
ただ入れ歯をしないと
刺激が少なくなってしまうので
定期的な口腔のケアをして
口の機能をできるだけ
落とさないように私たちも
できるかぎりお手伝いしますね。

それでどこかでまたいけそうなら
入れ歯を合わせてみます。
また普段みていて、
変わったことがあったら
教えてくれると助かります。」

私がそのように伝えると、
その介護スタッフの方は、
ほっとした表情で
話をしてくれました。
ただその返答内容に

私は少し驚きました。

どんなことを言っていた
と思いますか?

(次回に続く)

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