この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。
私はこの4月で、
今の歯科医院に勤務してから
丸10年が経過しました。
10年間という年月が経って、
私は一つの考えに辿り着きました。
それは、歯科医院と患者さんとの関わり方が
歯科医療の成果を決めていくということ。
ここでいう歯科医療の成果とは2つあります。
一つは、短期的な成果であり、
患者さんの生活の質が上がる成果。
結果が目に見えることが多く、
患者さんにとっても分かりやすい成果です。
このわかりやすい成果においても、
歯科医院と患者さんの関係性が、
結果の良し悪しや満足度に影響することが
わかりました。
もう一つは、長期的な成果であり、
患者さんが健康を保つための
縁の下の力持ち的成果。
結果が目に見えないことも多く、
なかなか患者さんにとっても
実感としてわかりにくいものです。
むしろ、この長期的な成果を求めると、
短期的には患者さんにとっては
苦痛を伴うこともあります。
たとえば、
虫歯や歯周病の治療や予防には、
食習慣の改善が非常に効果がありますが、
患者さんにとっては、今までの習慣を
変えることは非常に苦痛です。
習慣を変えず、
歯科医院に行ってとりあえず治療を受けて、
痛みがなくなったらはい終わりという方が、
ある意味患者さんにとっては楽ですよね。
でも、同じ食習慣や生活習慣だと、
必ずまた悪くなります。
これは確実にそうなんです。
歯科医療者は皆それが分かっています。
このままでは絶対また悪くなるよねと。
でもそれを変えることはとても難しい。
だって患者さんにとったら
苦痛なことだから。
でも本当は一番効果のあることなんですよね。
親子の関係でもそうですよね。
お菓子をあげたら子供はよろこびます。
子供に喜んで欲しいのは当然の気持ちです。
でもお菓子ばかりあげるわけにはいきませんよね。
それはその子の未来も考えるからです。
未来を考える長期的目線、
今の喜びを得るための短期的目線、
どちらも考えますよね。
だから時にはぶつかりながらでも、
良い方向に向かわせることが
必要なときもあるかもしれせん。
とはいえ、
歯科医院と患者さんとの関係は
親子関係と同じではありません。
患者さんの事情や感情を考えると、
いくら医学的根拠があったとしても、
強引な提案は、ただ迷惑になることも
あると思います。
でもだからといって、
患者さんには見えていないものが
見えている歯科医療者が、
その患者さんの未来を考えず、
今の結果だけを求めて
判断することも如何なものかとも思うのです。
強引なことも良くない。
でも患者さんの喜ぶことばかりするのも
無責任な感じがします。
とても難しい問題だったのですが、
今は確信しています。
それは無責任に患者さんの喜ぶことばかり
その場しのぎでこたえている歯科医院と
患者さんの未来にも責任を持ち、
長く関わりを続けていくと歯科医院とでは、
その患者さんの状態は間違いなく違っていくということを。
だから今の時点で、
患者さんには見えていないものまで
私たち歯科医療者は見ていく必要があります。
いや歯科医療者は患者さんに
見えていないものこそ
ちゃんと診ていく必要があります。
それが、健康の縁の下の力持ち的役割で、
歯科医療の大きな意義なのですから。
でもそのためには、
患者さんと良い関係で
長く関わり続ける必要があります。
だから最初に歯科医院と患者さんとの
良い関係性をつくりたいのです。
長く関わってもしんどくない。
お互いのことを思い合える安心感。
ぶつかりあっても壊れない。
そんな信頼関係で根本的に繋がった
関わりをつくれる歯科医院が
本当に良い成果を出していけるのだと思います。
(次回へ続く)
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