この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。
(前回のおさらい) 第2話へ
退院後、
形のあるものを
あまり食べなくってしまった
村田さん。
食べる意欲がないわけでもない。
歯が痛いわけではない。
入れ歯が合ってないわけでもない。
「原因は歯じゃない。他にある。」
食べるために必要なのは
歯だけではない。
いやむしろ、
歯がなくても
食べることは可能である。
現に、歯が一本もなくても
普通に食べている人はいる。
じつは歯よりも、
口の中からなくなってしまったら
困るものがある。
それは、舌(した)。
歯科医療者は、
舌(ぜつ)と呼んでいるが。
舌は、
口の中の心臓とも言われている。
もし口の中から舌が
なくなってしまったら、
食べることも、
話をすることも、
困難になってしまう。
それくらい、
舌は重要なものだと言える。
「村田さんは、舌の機能が
低下してるのではないか?」
だから私は、
村田さんの舌の機能を
調べてみることにした。
舌の機能を調べるための方法は
いろいろとあるが、
私は、
村田さんには絶対おすすめだと
確信していた一つの検査があった。
それが、舌圧検査である。
舌圧検査は、
舌を上あごに押し付ける
最大の力を測定するもの。
元気で健康な方なら、30以上。
高齢者の方でも、
25以上は欲しいところ。
村田さんの検査結果は10前後。
やはり
舌の力は弱いことがわかった。
したがって、
舌の力を高めるために、
村田さんにはトレーニングを
してもらわなければならない。
でも今回、
私には自信があった。
村田さんに、
拒否されずトレーニングを
していただけるという自信が。
なんでこの検査が村田さんに
最適だと思ったのか?
そう、私は村田さんと話して
知っていた。
村田さんが、
ゴルフに打ち込み、
かなりの腕前だったということを。
つまり、村田さんは、
スコアが出てしまったら、
それを高めたくなってしまう、
燃える男なのではないかと
私はにらんでいた。
実際、私のにらんでいた通り、
今回は、まったく拒否されたり、
お叱りを受けたりすることなく、
前向きな形で、
舌の力を鍛えるトレーニングを
はじめていただけることになったのだった。
そして1か月後—
わたしたちは、
患者さんのご家族や周りの方から、
予想もしなかった
驚きの声を聞くことになる。
(第4話へ続く)
※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。
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