この連載について
歯科医と患者さんとの間にはギャップがある。それが不満や後悔につながることも多い。歯科医の内藤は、そのギャップを埋めるため週に一度、落ち着いて患者さんと話せる時間をつくることにした。するとそこに毎週訪れるようになった小学5年生のゆめは君。内藤とゆめは君。患者さんからのご質問やご意見をもとにした2人の気さくな会話から、歯科医の想いや常識がみえてくる。歯科医と患者さんのギャップを埋め、お互いに後悔のない歯科医療を選択するための情報が満載。
内藤先生
話せる歯科医
ゆめは君
辛口な小学校5年生
ところでさ、歯医者さんがすすめてくる自費治療って本当に良いの?
そうだね。自費治療は、その歯科医が最もおすすめする治療の可能性が高いよ。
そう思われるのが嫌だから、自費治療をあんまりすすめていない歯科医もいるよね。
強引なのは良くないよね。患者さんに選ぶ権利があるから、納得できたら自費治療を受けたら良いと思うよ。
でも歯医者さんていつも忙しそうだから、そんなに納得できるまで話できないでしょ?
そうだね。本当は、自費治療を受けてほしいけど、忙しくてなかなか説明する時間がないから、いつもの流れで保険治療を行っちゃっている歯科医も多いと思う。
え?そうなの?本当は自費治療の方が良いと思っているのに、保険治療をやっていることも多い?
かなり多いと思うよ。自費治療を行うには、ちゃんと患者さんに納得してもらう必要があるし、それに患者さんの期待も大きくなるから、保険治療をやっていた方が楽っていう歯科医も結構いる。
でもね、歯科医が自分の家族に治療するとき、保険治療の範囲で治療することはあんまりないと思うよ。
そうなんだ!?それはやっぱり保険治療より自費治療が良いって思うから?
そうだね。それもあるんだけど、自費治療には自由度があるから。
あらかじめ決められているルールがない。もちろん違法なことはだめだよ。でも自分が歯科医として、ルールありきじゃなくって、その人に何をすることが一番良いかってことを考えてそれを実践しやすい。
歯科医が一番良いって思うことが、保険治療のルールではできないってこと?
そういうことがあるってことかな。前にも言ったと思うけど、たとえば虫歯の治療でも削ってこの材料でつめて○○円ていうようなルールが決まっている。保険治療のルールとは違うことをすると、当たり前だけど、保険の仕組みを使えない。
自費治療だともっと良い材質のつめものができるってことだよね?
確かに白くてきれいだとか、より体に害がないとか、使うつめものの材質についてもできるかぎり良いものを使うよね。信頼関係が前提にあるし、費用も時間も自分次第でもあるし。
そう。矛盾しているようだけど、費用がかかることだから、良いものだと思っても、そこは歯科医が勝手に決められないよね。
で、ちゃんと話せることができなくって、結局保険治療を行っちゃう?
行っちゃうっていうと、何だか悪いことをしているみたいだけど、保険治療が間違いってわけではないからね。ただ患者さんがそれを選ぶかどうかは抜きにして、やっぱり選択肢は提示すべきなのかなとも思うよね。
ここはとっても難しいし、先生もずっと悩み続けているところなんだよ。選択肢を提示しないのも良くないし、だからといってむやみに選択肢を増やすと、患者さんは迷うし、その一つを選んで結果が悪かったりすると、より後悔してしまったりするから。やっぱりあっちの選択肢にしとけばよかったみたいに。
むずかしいね。これしか方法がないっていう方が、迷いはないし、仕方ないって思える。だから選択肢を提示するなら、そこから何がその人にとって一番良いか決めていくまでの過程も手伝わないと、余計な迷いや後悔を生むだけだから。
だから話せる歯科医であることが大事かなって思っているよ。
話がちょっとズレてきちゃったね。自費治療は本当に良いのかっていう話にもどるけど、つめものやかぶせものの材質に違いがあるっていうのはまだ分かりやすいよね。でもさっきも言ったけど、自費治療の良さはルールありきじゃなくてその人にとって何が大事かを考えて実践できることにあると先生は思っているよ。
伝えやすいのはその部分。だけど、大事なことはもっと根本的なところ。
虫歯の話でいったら、まず虫歯になってきてしまった原因を考える。それにはその人の身体の状況や食事、生活環境をちゃんと聞かなければならない。
その人の全身的な健康や食事、生活環境の問題が、虫歯とか、歯周病とか、口の中の問題として現れていることが多いからね。根本的っていうと、食事や生活習慣の改善ってことになる。
元通りになるってわけじゃないけど、完璧にやれたら進行はかなりとまる。でも現代の日本の生活でそれを完璧にやるって難しいから、歯科医療者が補助的に介入したり、治療したりってなるんだけどね。
そう、実はそこがすごく大事なところだし、それを患者さんにちゃんと伝えようと思ったら時間も労力も実はかなり必要で、そこに保険治療のルールはまだないんだよね。
まだなかなかそういう部分の重要性を理解してもらって、その価値に費用を支払ってもらうっていうのはむずかしい。って歯科医たちは思っている。
歯医者さんたちは本当はそれが重要なことって思っているのに?
だから、材質とか技術とかのこだわりみたいなところで自費治療の価値を伝えていることが多いけど、実はルールに縛られずに根本的なことにちゃんと向き合える自由度っていうのが自費治療の価値かなって思う。
なるほど~。一人ひとりにちゃんと向き合えるって感じだね。
(次回へ続く)
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