話せるブログ 第23回 物語「入れ歯満足度を高める歯科医院の総合力 (第6話)」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

前回のおさらい(→第22へ)

松川さんは翌日に来院。
結構良い感じに入れ歯が入って、
まず70点はクリアしていただろうと
思っていた私は、
意気揚々と松川さんに挨拶していた。

「こんにちは!どうですか?
 入れ歯の調子は?」

 (調子が良いんじゃないですか?)

内心では勝手に、そう期待していた。

「はい、ただ右下の奥の歯肉が痛いんです。」

(ふんふん、やっぱり使えているな。
まあ70点だから少しは痛いところもあるよね。)

あまり松川さんの表情が
優れていないのは気になったが、
それくらいは想定の範囲だなと思いつつ、
私は松川さんの口の中を診てみた。

診てびっくり。

(ちょっと痛いどころじゃない。
これじゃ全然咬めていないはず。)

昨日は確かにしっかり咬める入れ歯にみえた。
というのは、咬んだ時に上下の歯が、
しっかり接触していた。
こちらが思う通りの咬み合わせになっていた。

ところが、今日診てみたら、
上下の歯の接触位置が全く異なっていた。

咬む位置が変化していた。

咬み合わせというのは、
歯だけで決まらない。
咬むための筋肉の緊張も大きく関係する。

左右で筋肉の緊張が異なれば、
咬む位置は、どちらかにずれる。
咬み合わせを決めるときには、
できるだけこの筋肉の緊張を
緩めてあげることが必要になる。

松川さんの医院に対する緊張や警戒を、
スタッフが解いてくれたが、
私が咬み合わせを決めるときには、
筋肉の緊張を誘発してしまい、
偏った咬み合わせで作ってしまった可能性はある。
このような技術的エラーの可能性は否定できない。

ただ、新しい入れ歯を入れて咬むようになると
顎の位置が変化することがある。
顎の位置が変化すると、
咬む位置が大きく変わる。

これまでの咬み癖によって、
習慣的な顎の位置が変わっている場合、
それをもとの位置に戻してあげる方が良い。
適応できるまで、リハビリが必要になるし、
それに合わせて、
入れ歯も調整していかなければならない。

これまでの咬み癖がある方の場合、
どこまでそれを修正していくのか。
そして、変化する咬み合わせに
どう対応していくのか。

うまくいくかは、
入れ歯をつくって、実際に口の中に入れて使用してもらうまでわからない。
そんなやってみなければわからないというような、
答えが見えにくいことも
入れ歯治療は難しいと言われる理由である。

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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