この連載について
歯科医と患者さんとの間にはギャップがある。それが不満や後悔につながることも多い。歯科医の内藤は、そのギャップを埋めるため週に一度、落ち着いて患者さんと話せる時間をつくることにした。するとそこに毎週訪れるようになった小学5年生のゆめは君。内藤とゆめは君。患者さんからのご質問やご意見をもとにした2人の気さくな会話から、歯科医の想いや常識がみえてくる。歯科医と患者さんのギャップを埋め、お互いに後悔のない歯科医療を選択するための情報が満載。
内藤先生
話せる歯科医
ゆめは君
辛口な小学校5年生
そう。自分の1年後、3年後、5年後、10年後とか。もっと先の20年後、30年後とか。
いやあんまりそんな先のことは考えたことないかな。考えたってどうなるかわかんないから。でも1年後くらいなら考えるかな。
そうだね。確かにそんな先の未来のことなんて正確にはわからないからね。先生も、ゆめは君くらいの年齢のときには自分の未来なんて全然考えてなかったと思う。
そうなんだ?じゃあ僕くらいのときは、歯医者さんになるなんて思ってもみなかった?
そうだね。今は考えるようになったね。自分の未来のことも、患者さんの未来のことも。
うん。患者さんの未来はいつも考えるよ。治療方針を立てるためにそれは絶対考えとかないといけないから。
でもね、患者さんと治療方針を決めるために話し合っているとき感じるのは、患者さんは自分の口や歯の未来のことをイメージできていないことが多いなってことなんだよね。
自分の口や歯の未来?それはあんまり考えることないと思うけど?
そうなんだよ。だから治療方針を決めるためにはその未来を考えてもらう必要があるんだよ。
確かにめんどくさいよね。自分の口の中や歯がどうなるか、それを考えた上で、今どうするか考えるってすごくめんどくさいとは思う。
良くわからないから、歯医者さんが考えて一番良いようにしてって思うけど?
もちろん歯科医がその患者さんにとって最も良いと思う方針を考えてはいくんだけど、そこには患者さんの価値観とか状況が影響するからね。だから患者さんと一緒に考えると、その患者さんが一番納得できるすごく良い方針が見つかるんだよね。
そうだね。そこでまず自分の歯や口の中がこのままだとどうなるのかってことを少しイメージしてもらう。そのイメージと自分たち歯科医療者のイメージをすりあわせる。
そうだね。さっきも言ったけど、患者さんは自分の口や歯がどうなるかっていう未来のことをあまりちゃんと考えたことがない。
その未来が自分の理想の未来なのか、それとも変えたい未来なのかを考えてもらう。もし変えたい未来であれば、他にどんな未来があるのか、そうなるためにどうすれば良いのかを一緒に考えていく。
患者さんは大変そう。あんまり考えたことないのに考えさせられて。
確かにね。でも自分自身のことがだから一生懸命考えてくれる患者さんが多い。もちろん、良くわからないから全部任せるって言われる場合もあるけどね。
全部勝手にはできないよね、治療には苦痛もリスクもあるし、費用もかかるから。でもその患者さんにいくつか質問したりして、少し話をしてると、その患者さんにとってこれが良いんじゃないかって方針が大体みえてくる。だからそれを伝えて理解してもらうようにするかな。
そうだよね。任せるって言われても勝手にはできないよね。
そうだね。任せてもらう場合でも、その人のことを良く知らないとだから、どうなりたいのかってことを話してもらわないといけない。顔や口の中を見て、レントゲンを見れば、その患者さんの過去や現在、このままだとどうなるのかっていう未来を予測することができるけど、どうなりたいのかっていう未来についてはその患者さんの中にしかないからね。
へえ。だから自分の未来のことについて考えてもらうわけか。
たとえばこの前話してた患者さんはね、今は40代だから入れ歯は嫌だけど、50代になったら、先のことも考えると今度は入れ歯が良いっていうんだよね。
そうなんだよね。そうなるとそれを踏まえて今すべきことを決めていくことになる。だから患者さんが自分の人生をどう考えているかっていうことも聞かないとその患者さんに合う方針ってわからないよね。
確かにね。人生をどう考えているかを聞く歯医者さんてめずらしい気がするけど。
その患者さんにも言われたよ。人生を考える歯医者に初めて会ったって。
(次回へ続く)
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