この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。
前回のおさらい(→第32回へ)
「仮歯にもだんだん慣れて
きましたし、それに、
下の前歯の歯並びも
良くなってきたような気がします。」
「そうですね。
だいぶ良くなってきましたね。」
仮歯を入れてから数か月後、
吉沢さんのズレていたアゴは
少し補正され、
突出していた下の前歯も、
だいぶきれいに並んできた。
私がしたことは
奥歯を2本仮歯に
置き換えただけ。
吉沢さんは驚いていた。
でも私は今回、
適切な咬み合わせの
仮歯に置き換えるだけで、
変化が起きる可能性が高いと
事前に予想していた。
だから吉沢さんには
まずは仮歯に置き換える治療
に前向きになってもらうように
期待感のある伝え方をして
治療をスタートさせた。
なぜそのような予想をしたのか?
たまたま吉沢さんは、
数年前にも一度来院していたため、
そのときの状態の写真が残っていた。
だから私は、
数年前に来院されたときの
吉沢さんの写真を確認できた。
そのときから咬み合わせは
低いものの、下の前歯には
変化が起こっていなかった。
写真で記録していると、
変化をみることができるので
とても貴重な情報だ。
それから数年。
咬み合わせの低さが持続。
歯ぎしりやくいしばりの癖もあり、
筋肉の緊張も持続。
それにより、
下アゴが右奥にずれ、
下の前歯は上の前歯に
ひっかかり、その部分の歯が
動いてしまった。
持続的な力で動いた歯は、
その力を解放できれば、
元に戻る可能性がある。
矯正治療の後戻りと同じ。
特に、下の前歯は後戻りしやすい。
だから私は、
下の前歯への持続的な力を
解放するためにも、
右の奥歯の仮歯を高く設定した。
そしてその予想どおり、
その2つの仮歯を入れただけで
元に戻る変化をみることが
できたのだった。
「では次のステップについて
お話し合いしましょう。」
今回吉沢さんが当院を
訪れたのは、インプラント治療を
したいから。
まだその事前準備のために、
仮歯にしただけ。
だから私は、その目的にむけて、
次のステップについての
説明に入っていくことにした。
(次回に続く)
※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。
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