この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。
どんな人がモテるのかという質問。
淳也君は唐突な私の質問に
首を傾げていた。
「・・・。」
淳也君からは返答はなかったが、
私は続けた。
「健康的できれいな人って、
やっぱりモテるって思うよ。」
内心、いきなりこの人は
何を言っているんだろうって
思っていたのかもしれない。
どんな人がモテるのか。
このことは、
人生をかけて
真剣に考えるに値する
難しくて重要な問いだとは思う。
だからもちろんそれに対する
正確な答えなど
私にも分からない。
様々な要素があるだろうし、
モテるにもどんな人に
モテるのかなど
ターゲットにもよるから、
そこに明確な答えなど
ないのかもしれない。
ここでの私の目的は、
モテるのがどんな人かという
答えを淳也君に
伝えることではない。
(もちろん、
淳也君が興味があれば
真剣に話しますが。)
歯を治療する、
あるいは原因を
コントロールして
良い状態を保つことが、
淳也君の身近なメリットにも
つながることを
イメージしてもらいたかった。
初診時から、
前髪を気にしている仕草が目立つし、
年頃の男子が、
女子からどう見られるか
気にならないわけがない。
「淳也君はモテるんじゃない?」
「いや別に・・・なんで?」
「顔が小さくて背が高いし、
それに顔立ちがきれいだから。
歯科医からみて、口元が
きれいな形をしている。
それはすごく相手に
良い印象を与えると思う。
だからモテるんじゃないかなって。」
淳也君は少し照れた様子。
ただまんざらでもなさそうな感じ。
私たち歯科医は、
職業柄、出会った人の顔を
よく観察する。
特に下顔面(鼻より下)は、
口の構造(歯並び、咬み合わせ、
周囲の筋肉など)
によって変化するため、
注意深く観察している。
口の構造を決める要因として、
親から譲り受ける
遺伝的要因も関係するが、
実は環境的要因がとても
大きく影響することが
分かってきている。
同じ遺伝子をもって生まれても
環境要因によって、
口の構造は良くも悪くも
かなり変わるということ。
淳也君の場合、
口の構造としては、
とても良い状態だった。
ただ構造だけでなく、
虫歯や歯周病も環境要因が
大きく影響する。
淳也君の母親は、
かなり淳也君のことを
よく見ている。
だからおそらく、
中学生くらいまでは、
虫歯もあまりなかったのだと思う。
ただ思春期になり、
虫歯になりやすい環境ができていた。
その継続で虫歯が進行してきていた。
そのことを危惧していた母親が、
痛みを訴えたことをきっかけに
歯科医院に連れてきたのだ。
「今回、歯が痛くなったから
歯科医院に来たんだよね?
このまま今の状態が続くと
どうなると思う?」
(次回に続く)
※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。
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