話せるブログ 第5回 治療は必要ないと怒る患者さん(最終話)

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

(前回のおさらい) 第4話へ

「村田さん、前歯が入ったら、
絶対カッコよくなりますよ!」

「お父さん、
前歯の治療してもらおうよ。
この前、
お母さんも言ってたじゃない。
あなた前歯がないじゃないって。」

「いらん!」

やはり、村田さんご本人は
治療を拒否していた。

でも私は、
治療は少し大変だけど、
村田さんも前歯が入ったら
絶対喜ぶはずだと確信していた。
ご家族が喜ぶのも絶対嬉しいはず。

だから私は、
本人が拒否しているのに、
とても勝手のようだが、
前歯の治療を開始することにした。

「リスクは少ない。
だから必ずうまくいくはず。
皆が望んでいることなんだ。」
私は、心の中でそう自分に言い聞かせていた。

ただ私は、
村田さんにお叱りを受けながら
治療を行うことになることは
覚悟しなければならない。

「心が折れそうになったら
慰めて下さいね。」

私は、
ご家族や
周囲の関わっている方に、
そんなお願いをしていた。

ところが意外にも、
治療を開始したら、
村田さんはとても協力的。
一緒に同行していた
歯科衛生士の吉田さんも
びっくりして、
「トラがネコになったみたい」と。

在宅で行う治療としては、
なかなか大変だったが、
村田さんがとても
協力的にしてくれたので
2回の治療で
仮歯だが前歯を入れることができた。

前歯が入った日のこと。

「お父さん!良いやん!」

娘さんは、
前歯が入った村田さんをみて、
とても喜んでくれていた。

村田さんもまんざらでもない様子。

「お父さん、
今度はどこにご飯食べに行こうか?
笑って写真撮れるね。」

——

村田さんのご自宅から
帰りの車内で私は、
今回のことを振り返っていた。

村田さんは治療を拒否していた。
それを周りの期待や自分たちの想いで
すすめてしまったけど、
本当に良かったのだろうか?
村田さんのためになっていたのだろうか?
村田さんは本当に喜んでいたのだろうか?

そんな中、
助手席に座っていた
歯科衛生士の吉田さんが
私に教えてくれた。

「先生は気づかなかったかもしれないけど、私は確かに聞きましたよ。
帰り際に、
村田さんが小さい声でありがとうって言ってたのを。」

(次回に続く)

※ここでの物語はすべて実話に基づいていますが、登場する方々の氏名は仮名であり、個人が特定されないように配慮をしている点をご理解ください。

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