話せるブログ 第29回 感性&思考「患者さんの言いなりの歯科治療の危険性②」

この連載について
一人ひとりの答えが違う歯科医療。そんな中、話せる歯科医は、患者さんの言いなりでもなく、自分勝手でもない。科学的な根拠も大事だけど、ときに感覚やあいまいさを優先する。ではいったいどんな歯科医が話せる歯科医なのか? 私、内藤の経験や物語をとおして、話せる歯科医をひも解いていきます。ここには、これからの歯科医療における答えの決め方のヒントがあるはずです。

私たちの仕事は、
患者さんの今だけでなく、
未来も考えていくことが必要です。

この患者さんが、
将来的にどのような経過を
たどっていくのか、
そして、
今私たちが何か介入する事で、

良い方向に向かうのか、
向かわないのか

それが確率的にどうか、
それをいつも考えています。

患者さんが抱える問題を
解決するために、
私たちは、
患者さんの話を良く聴いていきます。

歯科治療において、
患者さんに満足して頂くためには、
患者さんの主観的な感覚を
満たすことは重要です。

主観的な感覚というのは、
見た目が気に入るとか、
痛くないとか、
違和感がないとか
のことを指しています。

ただし、歯科治療の良否を、
患者さんの感覚に頼りすぎると、
その時は良くても、
将来的に不都合が
出てくることがあります。

たとえば、
かぶせものの治療をしたとき、
その咬み合わせは、高過ぎず、
低過ぎず、その人にとって
丁度良いものを入れる必要があります。

当たり前に思われるかも
しれませんが、
それは実は
結構難しいことです。

なぜ難しいのかというと、
患者さんが良いと感じる感覚と、
客観的な丁度良さが異なることが
あるからです。

患者さんの感覚としては。
かぶせものを入れられたとき、
咬み合わせが高いと
違和感を感じやすいし、

低いと違和感を
感じにくい傾向にあります。

患者さんからしたら、
新しいかぶせものが入ったときは、
違和感があると不快に
感じるかもしれません。

ただ、違和感がなく、
心地よくても、

咬み合わせが低い場合もあるのです。

歯科医は、
患者さんの感覚を
一つの貴重な情報としつつも、
その情報に頼りすぎず、
その患者さんの咬み合わせを
丁度良く合わせていかなくてはなりません。

ここで、患者さんの心地よさの
要望に応え過ぎると、
咬み合わせが低くなってしまうので
注意が必要なのです。

もし患者さんの今感じている
不快な違和感をすべて取るために、
咬み合わせの低いかぶせものを
入れるとどうなるのでしょうか?

そのまま、
そのような治療を積み重ねると
どんな未来が待っていることがあるのでしょうか?

次の方をみてください。

この方は、
右の奥歯に低いかぶせものが入っていました。

数年後にお会いしたとき、
次のような状態になっていました。

右下の前歯2本の歯並びに変化が起こっていました。
(右下側切歯と右下犬歯が前に突出しています。)

これは明らかに右下奥歯の
かぶせものの咬み合わせが
低いことに起因する変化です。

私たち歯科医は、
患者さんの今の状態を改善しつつ、
それができるだけ長く続くように
未来を見据えて判断していかなければなりません。

もちろん、
未来のリスクを十分話し合った上で、
今というこの瞬間を優先する
という決断をする場合もあります。

俳優で役作りのために、
歯を抜くという選択をする方もいるように。

それはその人の生き方ですから
否定はできません。

その場合には、
その方がその後できるだけ
困らないように
支援することに
なるのだと思います。

話が飛躍しましたが、
私は話せる歯科医でありたい
と思っています。

話せる歯科医は、
患者さんの要望や期待に応えるために
尽力しますが、患者さんの言いなりの
治療をするわけではありません。

ここで言いたいことは、
その方の未来がどうなるかを考えて、

こちらも勝手に決める部分があるということです。
咬み合わせの高さなどは、
患者さんの感覚を参考にしますが、
結構勝手に決めます。
感覚に頼ると、良くない事があるからです。
良い治療を行うには、

歯科医が勝手に決める部分も必要だと思っています。

でも自分勝手ではありません。
患者さんの価値観や好み、
環境や経済が関係してくることは、
十分に話し合って決めていきます。
歯科医療の治療方針の選択は、
患者さんが自分の人生を
どう生きるかの選択に近いからです。

そこに一つの決まった答えは
ありませんので、
患者さん
一人ひとりに向き合い、

一緒に決めたいと思っています。

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